イチロー、3000本安打を支えた打撃フォームの秘訣。オリックス時代の師が語る“振り子打法”と“ルーティン”
メジャー通算3000本安打を記録したイチロー。オリックス時代の監督・コーチは皆、稀有な才能と立ち会えた喜びを口にする。
2016/08/09
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体は投手寄りに動いても、体の中心線が崩れない振り子打法
「振り子打法」への本格的な取り組みはプロ入り後の92年から。「ボールを長く見るためにと生まれたんです」と誕生のいきさつを語ったのは河村健一郎だ。
イチロー入団時の二軍打撃コーチであり、イチローを特集するメディアなどにもしばしば登場した人だ。
「入団当時は軽く足を上げて打っていましたが、体が細くて普通のタイミングで捉えると球に負けてしまうことが多かった。フリーバッティングを見ていても1年目なんかは、タイミングは合っているけど打球がゲージから出ない。とにかくファウルが多かった。そこでもっと早くタイミングを取って、遠くから来る球を捉える感覚でやってみようという中で生まれたのが“振り子打法”でした。
バッテリー間の18.44メートルを25メートルの感覚にしようと始めてみると、自分の“間”の中でグッーと球を引っ張ってくるようになった。しっかりミートでき、気持ちよく打球がセンター前へ返るようになっていきました」
タイミングを重視する中で生まれた振り子打法だが、軸足が前の足についてくる動きについて河村はどうとらえていたのか。阪急ブレーブス黄金期に現役時代を送った河村は主に代打やDHを担う右のパワーヒッターだった。『軸足にしっかり体重を残し、ボールにバットをぶつけるようにして飛ばす』――現役時代のスタイルにイチローに通じる形を思い出させる新井と違い、河村は振り子のスタイルとは真逆に思えるバッターだった。
「当初は体重移動の大きな打ち方に『緩急に弱いはず』と周りからよく言われました。でも、イチローの場合は体が投手寄りに動いても、左右の足底と体の中心線上にある頭の位置でできる二等辺三角形が崩れなかった。体重移動に後ろ足もついてきているから中心線がずれない。捕手側の足の固定が常識だった世代の人にはなかなか受け入れにくいスタイルだったとは思いますが、理に叶った打ち方だったんです」
河村はある時、メジャーの選手の打撃フォームを映像や写真で見た。すると、多くの選手の軸足が動いていることに気づいたと言った。日本のファンがすぐにイメージしやすい好例として例えばオマリーがいる。軸足を固定せずに打つ「フリーフット」と呼ばれるスタイルでアメリカでは珍しくないと知った。野球の本場の常識に触れたことで河村の中から一切の迷いは消え、目の前の才能を世に送り出すことだけを考えたと言った。
NPBからMLBへ。今なお続くイチローの活躍については改めて触れるまでもない。どこを切り取っても賞賛の言葉しか浮かんでこない。ただ、磨き抜かれた技術はもちろん、2人の師が熱っぽい姿勢で加えることを忘れなかったのはイチローのメンタルであり、取り組みの姿勢だった。