【MLB】イチロー、マイアミの至宝に。現地取材で見えた、マーリンズとファンにとっての価値
イチローの偉大さは、現地マイアミや日本だけでなく、キューバにも広まっている。
2016/08/18
阿佐智
イチローいれど、空席の目立つ本拠地
「お前日本から来たのか? イチローってのはすごい奴だな」
イチローのメジャー3000本安打は、ホームのマイアミに戻る直前に達成されたが、本拠地マーリンズパークから指呼の間にあるリトルハバナでも彼の偉業は話題になっているようだった。安食堂でキューバンフードをほおばっていた私に、日本人かと声をかけてきた男の第一声がこれだった。
ペロータ(野球)の国、キューバでは、イチローは野球界の英雄としてたたえられているという。リトルハバナの人々は、朝起床すると、キューバに残した親戚に電話をかけて野球談議をするのが日課となっている。イチローの偉業は、彼らの声を通じてキューバにも届けられているようだ。
とは言え、8月8日からの「凱旋シリーズ」の盛り上がりはいまひとつだった。マイアミ・マーリンズはメジャーでも有数の不人気球団である。2012年シーズンから使用しているダウンタウンからも近い開閉式の屋根をもつマーリンズパークも、集客には苦労し、普段は上層スタンドを閉鎖する有様である。この日も、下層スタンドにしか客を入れていないにもかかわらず、スタンドには空席が目立った。もしかしたら歴史的瞬間に立ち会えたかもしれないこの3連戦だったが、チケットは前売りでもさばくことはできていないようだった。
9日の試合もイチローは前日に続いてのベンチスタートだった。3000本安打を放とうが、3割を記録していようが、マッティングリー監督の起用法はぶれることがない。イエリッチ、スタントン、オズーナのレギュラー外野手はクリーンナップトリオとしてスタメンに名を連ねていた。
試合は、初回に2点を先制したマーリンズがそのまま逃げ切ったというあっさりとした、ある意味盛り上がりに欠ける展開だった。そんな単調な試合のボルテージが最高潮に達したのは7回裏、これまでサンフランシスコ・ジャイアンツ打線を無得点に封じ込めていたマーリンズの先発投手・コーラーに代打が告げられた時だった。スタンドの地元ファンは、代わる打者が誰だか分かっているかのように、アナウンスが流れる前に総立ちになって叫んでいた。イチロー・コールがどこからともなく湧き上がっている。残念ながらこの打席でもヒット出なかったが、この球場の主役が誰であるのかをこの大声援が物語っていた。
翌日のデーゲーム、マーリンズの至宝はスターティングラインナップに名を連ねていた。休養のスタントンに代わって6番ライトで出場したイチローに打率で上回っていたのは、2番のプラードと3番のイエリッチだけだった。ラインナップが大ビジョンの映像とともに発表されたときも一番の声援を浴びていたのもイチローだった。