同じ野球なのになぜ違う? 数値から見たNPBとMLBの「内野守備」【広尾晃の「ネタになる記録ばなし」】
ブログ「野球の記録で話したい」を運営中で『プロ野球解説者を解説する』(イーストプレス刊)の著者でもある広尾晃氏。当WEBサイトでは、MLBとNPBの記録をテーマに、週2回、野球ファンがいつもと違う視点で野球を楽しめるコラムを提供していく。今回は、「NPBとMLBの内野守備の違い」についてだ。
2014/12/18
守備率の数字は重視されなくなった
以前にも述べたが、野球の記録の中でもっとも未整備なのが守備記録だ。
MLBでは守備の実力を計る基準がいろいろと設けられているものの、それでも本当に「うまい野手」を評価する数字はまだまだ不十分だ。
NPBはMLBよりも記録の項目も少なく、評価基準も守備率くらいしかない。
現在、守備能力を見る一般的なSTATSとしてはRF(レンジ・ファクタ―)と守備率がある。
RFは以前にも紹介したように、1試合当たりの守備機会(刺殺+捕殺)を示した数値だ。
いわばどれだけアウトに関わったかという数字ともいえる。RFの値が大きな選手は、守備機会が多い、つまり守備範囲が広い選手ととらえていいだろう。
従来は守備率が重要視されていた。これは失策数÷(守備機会+失策数)で算出される。つまりエラーの少なさを示す数値だ。グラブさばきや送球がうまい選手は、守備率が上がる。しかし難しい打球や送球を追いかけて取れなかったときは失策がつく。
現実的にはありえないが、極端に言えば守備率を上げるためには、無理な球は追いかけないほうが良いことになる。そんなことから守備率では本当の守備力は計れない、という意見が大勢を占め、今はそれほど重要視されなくなった。
MLBではZR(ビデオ解析によって自分の近くに飛んできた打球をどれだけ処理できたかをはじき出した数値)やUZR(ZRの改良型、ビデオ映像に基づいてすべての守備記録をマッピングし、リーグにおける同じ守備位置の平均的な選手が守る場合に比べて、その選手が守備でどれだけの失点を防いだかをはじき出した数値)、プラスマイナスシステム(ビデオ解析によってそのシーズンの各ポジションの野手の守備範囲の平均値を算出し、個々の選手がその平均値からどれだけ優れているか、劣っているかを算出した数値)などのデータが出されている。
これは毎試合毎試合、ビデオ映像などから打球の位置をすべてチェックしなければならない。費用もかかるし、一般のファンには扱える数字ではない。
私は毎年オフには投打の記録に加えて、守備の記録もまとめている。まとめながら毎年不思議に思っていることがある。
NPBとMLBの内野手の成績をRF順に見てみよう。いずれも既定出場試合数以上だ。
MLBでは野手の出場記録をイニングレベルで記録している。投手と同じように00回3分の1の単位まで出てくる。RFはこれに基づき9イニング当たりの数値を出している。NPBのRFは、守備機会を試合数で割った簡易形。公平を期すため、MLBもNPBの簡易形で算出した。
NPBでは一塁手は森野、二塁手は菊池、三塁手は川端、遊撃手は今宮が、一番守備範囲が広いことになる。
MLBは、一塁手はモルノー、二塁手はアトリー、三塁手はアレナード、遊撃手はエチェバリア。
NPBでは遊撃手を除く3人がセリーグ、MLBでは全員がナリーグ、日米ともに指名打者のないリーグの選手が上位に来ている。
これは指名打者がなく、投手が打席に立つことで「指名打者制のリーグよりも処理しやすい打球がより多く飛ぶ」ことを意味していると思われる。
しかしそれ以上に注目すべきは、日米でのRFの数値の「差」だ。
一塁手のRFは、MLBが軒並み9.0をオーバーしているのに対し、NPBは8台が中心。
NPBは1試合当たり0.5~1個も守備機会が少ない。
二塁手は反対にNPBのほうが1個近く守備機会が多い(菊池の6.21はNPBの中でもずば抜けていることがわかる)。
三塁手の場合、MLBのほうが0.5から1個近く多い。遊撃手の数値はそこまでの差がない。
実はこの傾向は今年だけでなく、近年ほぼ同じだ。これは何を意味しているのだろう?