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4分の3を死守せよ!MLB黄金時代を実現したシーリグ・コミッショナーのステイクホルダー・マネジメント【豊浦彰太郎の Ball Game Biz】

MLBに空前の繁栄をもたらせたシーリグ・コミッショナーが引退する。23年に及ぶ治世を支えたのは、オーナー会議での「4分の3」の原則に則った、弱者へのケアというステイクホルダー・マネジメントだった。

2014/12/28

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シーリグがMLBに遺したもの

 その彼が引退する。代行時代も含めると23年間の在任中に、総収入は年間12億ドル(現在のレートで約1440億円)から90億ドル(約1兆800億円)に拡大した。それ以外にも運営面での実績は枚挙に暇がない。3地区制への移行とワイルドカード制度の導入、インターリーグ制度の導入。国際化戦略としてのWBCの開催などだ(94-95年のストライキを招いたことや、薬物使用を蔓延させたことへの非難もあるが)。

 そして見落とすことができないが、ぜいたく税や収入配分制度の導入ではないか。これこそ、シーリグのビジネスマンとしての本質を物語るアウトプットだと思う。

 ビジネス的拡大は確かに立派な目に見える成果だ。その背景として1990年代以降のアメリカ経済の空前の好景気を見落とすことはできない。極論すれば、誰がやってもある程度の成功は達成できた可能性は否定できない。
 だが、ぜいたく税や収入配分制度は彼の政治的センスのたまものだ。それらの制度のアイデア自体は彼のものではないが、これらの仕組みの必要性を見通した眼力は大したものだ。

弱者に配慮した、閉鎖型ビジネスモデルを確立

 運営方針は、護送船団方式だった。決して、弱肉強食の自由経済論者ではない。ぜいたく税はヤンキースのようなリッチな球団に「お仕置き」を与える行為だし、収入配分制度は簡単に言うと、ドジャースなどの人気球団が稼いだカネを部分的にマーリンズに分け与えるシステムだ。ある意味、少しも公平ではない。

 シーリグは、そのシステムを導入し定着させた。なぜか? まずは、MLBを代表とするアメリカ4大スポーツは、欧州サッカー(Jリーグも同様だ)などとは異なり、トップリーグと下位リーグとの入れ替えがなく、新規参入も厳しく制限している「閉鎖型」ビジネスモデルであるということを、しっかりと認識していたからだろう。どんな人気球団も、対戦相手がいて初めて興行が打てる。弱小で不人気の球団でも必要なのだ。

 もうひとつの理由は、MLB機構においては重要な事案を実行に移すには、オーナー会議で4分の3以上の賛同を得なければならないことだ。別な言い方をすれば、レイズの1票もレッドソックスの1票もMLB機構における意思決定への効力は全く同じ。そして、反旗をひるがえすのは。全体の繁栄から取り残された弱者から発生するものだということを、理解していたのだろう。彼は常に弱小球団の利益を保つために尽力した。それこそが、「4分の3」の大原則を熟知した彼のステイクホルダー・マネジメントだったのだろう。

 シーリグの年金額は年間600万ドル(約7億2000万円)だという。史上最もリッチな年金生活者かどうかはわからないが、その超ド級の年金額もオーナー達の4分の3以上が承認したのだ。それはそうだろう。なにせ、彼らの財布に大金をもたらした恩人なのだから。

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