MLBの「アンタッチャブル」な記録を楽しむのも、野球の醍醐味の一つだ。【広尾晃の「ネタになる記録ばなし」】
ブログ「野球の記録で話したい」を運営中で『プロ野球解説者を解説する』(イーストプレス刊)の著者でもある広尾晃氏。当WEBサイトでは、MLBとNPBの記録をテーマに、週2回、野球ファンがいつもと違う視点で野球を楽しめるコラムを提供していく。今回はアンタッチャブルなMLBの記録についてだ。
2014/12/29
明治時代から始まったMLB
MLBの歴代記録を調べていて、しみじみ思うのは「ずいぶん昔からやってるんだなあ」ということだ。
MLBのリーグ戦が始まったのは、1876年。日本は明治9年、鹿児島に帰った西郷隆盛が西南戦争の準備をしていた頃だ。
そしてアナ両リーグが誕生したのは1900年(明治33年)。当時、日本では夏目漱石がイギリスに留学し、中国大陸で日露戦争につながる暴動が起こった。
その頃からMLBは今と同じ形式でペナントレースをし、試合の記録を取り、個人成績を延々と記録し続けてきた。
インターネットが普及するまで、アメリカの出版社は何千ページもある記録集を発行した。MLBに1試合でも出場した選手はすべて載っている。膨大な数字だけでつづられたMLBの歴史だ。一流の出版社が何社も発行していたから、それだけニーズはあったのだろう。
今はそれがネットでのデータベースに代わっている。膨大な数字の集積は、野球というスポーツがアメリカ人にとっていかに大切なものだったかを物語っている。
歴史の浅いアメリカにおいて、野球は、日本の伝統文化と同じようにリスペクトされているのだ。
年末に当たり、今回はそうした野球記録の頂点に立つ選手たちの一覧をご紹介しよう。
『baseball-reference.com』という記録専門サイトには、各部門のベスト1000が紹介されている。これに基づいて一覧表を作った。なお、『baseball-reference.com』は、独自の集計を行っているので、MLB公式サイトとは微妙に数字が異なる部分がある。『今回はbaseball-reference.com』に準拠する。
もはや記録更新が困難な偉大なる数字が並ぶ
打撃各部門のリーダー、歴代、現役、そして日本人選手をまとめた。打率、出塁率、長打率、OPS(出塁率+長打率 強打者の指標)は3000打席以上。WARは守備、打撃の総合評価指数だ。
一覧してわかるのは、ほとんどの記録が「アンタッチャブル」になっていること。140年近いMLBの歴史の中で、野球をする環境や投打のバランス、選手起用法などは大きく変化した。
今では考えられないような数字が並ぶのは、それだけ長い歴史を持っているからでもある。
試合数、安打はピート・ローズ。70年代を中心に活躍した安打製造機。日本でもそのハッスルプレーを披露した。
得点、盗塁はリッキー・ヘンダーソン。70年代から21世紀初頭まで活躍したスピードスターだ。盗塁数1406は圧倒的、今後更新できる選手はもう出てこないのではないだろうか? 出塁数が多い分本塁を踏む回数=得点も増える。ちなみにリッキー・ヘンダーソンは盗塁死(335個)でも歴代1位だ。
本塁打と打点は、バリー・ボンズ、ハンク・アーロン、ベーブ・ルース。それぞれ21世紀、60~70年代、20~30年代を代表するスラッガーの争いだ。
三振は興味深い。70年代に活躍したレジー・ジャクソンが1位だが、2位に昨年まで現役だったトーミ、3位に今年引退を表明したアダム・ダンがいる。
現代の野球は「やたら三振が多い」のだ。打者が三振を恐れず長打を狙う。投手は変化球を駆使して三振を奪う。
データに基づく新しい野球の記録体形であるセイバーメトリクスは「長打が多い打者」「三振を奪える投手」を高く評価する。このことが三振数を急増させているのだろう。
打率は、タイ・カッブが断トツ。MLBに昇格して2年目から3割を打ち、4割を2回記録。41歳で引退した年でさえも.323だった。ベーブ・ルース以前の、本塁打ではなく安打が「打撃の華」だった時代の選手。これもアンタッチャブルだ。
打率3位は〝シューレス〟ジョー・ジャクソン。「ブラックソックス・スキャンダル」でMLBを追放になった伝説の選手だ。
出塁率、長打率には、「積み上げ型」の数字では出てこなかったテッド・ウィリアムス、ルー・ゲーリッグの名前がある。テッド・ウィリアムスは兵役、ゲーリッグは病気で選手生活を縮めている。まさに彼らの「打撃の質」はトップクラスだったことを証明している。
現役では、多くの数字でアレックス・ロドリゲスが1位になっている。しかし彼に大きな期待ができないのは残念なことだ。
アレックス・ロドリゲス以外にも、歴代順位に顔を出しているバリー・ボンズも「薬物汚染」のために殿堂入が絶望的になっている。またピート・ローズは「野球賭博」に加担したために殿堂入りできなかった。MLBの歴史にはこうした「黒歴史」も刻み込まれている。
ちなみに日本人の記録は大部分がイチローと松井秀喜が持っている。イチローは安打数では現役2位、盗塁数では1位だ。