疑惑により大記録を達成した選手が、殿堂入りできず。MLBに求められる〝評価基準〟【広尾晃の「ネタになる記録ばなし」】
ブログ「野球の記録で話したい」を運営中で『プロ野球解説者を解説する』(イーストプレス刊)の著者でもある広尾晃氏。当WEBサイトでは、MLBとNPBの記録をテーマに、週2回、野球ファンがいつもと違う視点で野球を楽しめるコラムを提供していく。今回は、MLBの野球殿堂に関してだ。
2015/01/19
評価が割れる薬物疑惑対象の選手、イチローの殿堂入りは確実か
多くの候補は1年目で5%の得票を得ることなく落選する。
昨年は野茂英雄が引退後5年を経過して候補となったが、1.1%しか得票できず落選した。MLBの殿堂入りは、先発投手では最低200勝していないと難しいとされる。野茂はMLBでは123勝。日米合計の数字は考慮されないから、落選は仕方がなかったのだ。ただし、野茂は同年のNPBの野球殿堂入りを果たした。
この候補の中に、圧倒的な数字を残しながら得票率が上がらない選手がいる。
354勝のロジャー・クレメンス、762本塁打のバリー・ボンズ、シーズン70本塁打のマーク・マグワイア、66本塁打のサミー・ソーサらだ。
彼らは20世紀末から21世紀初頭にかけて派手な活躍を見せたが、後に薬物を使用していたことが判明した。そのことが殿堂入り投票に暗い影を落としているのだ。
薬物疑惑はMLBの長い歴史の汚点になろうとしている。
MLBの本塁打、安打、投手の勝利数ランキングを見てみよう。
500本塁打以上の選手は26人いる。多くは殿堂入りしている。しかし1位のボンズ、8位のソーサ、10位のマグワイアは殿堂入り資格がある年限になりながら選出されていない。また、12位のパルメイロは候補になったが5%未満の得票しか得られず候補になって4年目に失格した。
3000本安打以上の選手は28人いるが、1位のピート・ローズ、25位のパルメイロが失格。300勝以上は24人いるが、9位のクレメンスが選出されていない。
選出されていない選手、失格した選手の中で、ピート・ローズは野球賭博に関わったことで永久追放された。それ以外の選手は薬物使用が影響して得票が伸びていないのだ。
現役のアレックス・ロドリゲスは5位の654本塁打を打ち、あと61安打で3000本安打に達するが、彼も薬物使用でペナルティを受けており、殿堂入り資格を得ても投票は伸びないことが予想される。
野球史に燦然と残る成績を残した大選手が、野球殿堂に選出されない。そういう異常事態が発生しているのだ。
「薬物を使って好成績を残した選手なんか、選出されなくて当然だ」と言う声が上がる一方で「MLBはオリンピックなどと比べてもドーピングや薬物使用などの取り締まりに積極的ではなかった。選手だけを責めるのはおかしい」との声もある。
薬物疑惑のある選手の中にも、使用を認めた選手、認めていない選手がいる。またMLBが使用を厳禁する前に使用していた選手も、その後に使用していた選手(アレックス・ロドリゲスがそうだ)もいる。彼らをどう判定するかは非常に難しい。
MLBは近い将来、薬物使用、疑惑のある選手に対して、何らかの判断基準を示すことになるのではないか。
ところで今季の去就がまだ決まらないイチローは、2844安打。シーズン最多安打記録や10年連続200安打など驚異的な数字を挙げているので、当選確実だと言われている。
薬物疑惑にも巻き込まれていない。オーガニックな選手だ。
私たち日本の野球ファンには数年先に、大きな楽しみが待っている。