格差是正で“儲かる仕組み”が進化 「量」から「質」へと転換したMLBの球団ビジネス【広尾晃の「ネタになる記録ばなし」】
ブログ「野球の記録で話したい」を運営中で『プロ野球解説者を解説する』(イーストプレス刊)の著者でもある広尾晃氏。当WEBサイトでは、MLBとNPBの記録をテーマに、週2回、野球ファンがいつもと違う視点で野球を楽しめるコラムを提供していく。今回は、MLBセリグ前コミッショナーが築いた「ビジネスモデル」についてだ。
2015/02/02
MLBの収益増大に成功したセリグ前コミッショナー
MLBのバド・セリグコミッショナーが退任した。81歳という高齢。本来は6年前に退任する予定だったが、オーナーの強い支持を得て任期を延長したのだ。
オーナーたちが支持したのは、セリグが素晴らしいビジネス手腕の持ち主であり、球団を儲けさせたからだ。
NPBの場合、ビジネスは各球団の裁量に任されている部分が大きい一方、MLBではローカルビジネスは球団に、ビッグビジネスはMLBに、と役割分担がはっきりしている。
したがって、MLBのコミッショナーはビッグビジネスの手腕が問われる。
セリグはMLBの収益体質を改善するとともに、市場を拡大した。そして大都市の金持ち球団とローカル球団の格差を小さくした。つまり各球団が黒字になるような政策を推し進めたのだ。
そのことは、観客動員数に表れている。
セリグがMLB機構の実質的なトップとなって4年後の1996年、8年後の2004年、そして昨年の、球団別観客動員数のランキングを見てみよう(本来10年おきに数字を抽出したいところだが、94、95年はストライキによって試合数が削減されており比較が難しいので96年にした)。
10位までと最下位、そしてトータルの数字を算出した。
18年前、最も観客を集めたのはエキスパンションで創設されて5年目のコロラド・ロッキーズだった。
300万人以上の観客動員があったのは4球団だけ。それが8年後には9球団に増えている。
この間に球団が2つ増えたこともあるが、全体の観客動員は6009.7万人から7302.3万人へと急速に拡大している。
1990年台はFA権をめぐって選手がストライキを行ったことなどもあり、ファン離れが進んでいた。それをセリグは労使交渉をまとめて正常化させた。そしてエキスパンションで球団数を増やした。
そういうこともあって、8年後には観客数は大幅に伸びたのだ。
それが2004年と2014年を比べると、300万人以上の球団は9球団から5球団に減っている。トータルの観客動員数はわずか72万人しか増えていない。
これを見た方は、もしかしたら、頭打ちのような印象をもつかもしれない。