「我慢することが肝心」トミー・ジョン手術後のリハビリ経験が、その後の財産になる【元ドジャーススカウト、小島圭市の禅根夢標】
読売ジャイアンツなどでプレーし、その後ロサンゼルス・ドジャースの日本担当スカウトとして当時、黒田博樹投手や齋藤隆投手の入団に携わった小島圭市氏の連載。小島氏は現在、スポーツ環境の向上から青少年の育成に積極的に関わっています。今回のテーマは「トミー・ジョン手術」について。小島氏本人も手術を経験しているだけに、その内容には説得力があります。
2015/03/20
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ダルビッシュ有投手の判断は賢明
テキサス・レンジャーズのダルビッシュ有投手が右ひじの靭帯を部分断裂し、修復をするトミー・ジョン手術を受けた。松坂大輔投手や和田毅投手、藤川球児投手など相次いで、日本人投手が靭帯を損傷しているというニュースは国民の関心事だろう。日本では、体にメスを入れることをよしとしない風潮があり、現在も様々な議論が巻き起こっている。現役時代にトミー・ジョン手術を受け、マイナーながらアメリカの舞台に復帰した経験を持つ小島圭市氏にトミー・ジョン手術のその心底にあるものを尋ねた。
――ダルビッシュ投手がトミー・ジョン手術を受けました。決断発表に至るまでに、少し時間が掛かりましたが率直な感想をお願いします。
松坂大輔投手もコメントしていましたが、賢明な判断だと思います。その一言ですね。
――怪我を負った原因としては、何が考えられるでしょうか?
日本中で巻き起こっているのはボールやマウンドの堅さ、登板間隔などが言われていますけど、AorBということではないと思います。いろいろな原因があって、トミー・ジョン手術を受けなければならない状況になった。ただ、その中で大きな要因となるものがあるということでしょう。一つは、ダルビッシュ投手はアメリカに来る前に、2カ月で10キロ近く体重を増やしたことがありましたよね?その影響が少し出たんじゃないかなという気はします。
――急激な体重増加、体が大きくなるというのは、危険性があるのでしょうか?
靭帯というのは、関節と関節をつなぐ役割をしているわけですから、例えば、そのつなぐ両側の錘が5対5だったのが、急に10対10になると考えてみたら、どうなるでしょうか。急な重量を本人がそう感じてはいなくても、体が耐えきれなくなっていくということもあるでしょう。物事はゆっくり、段階的に進めていかなければいけないと思います。ただ、投手の怪我に関しては、根底的に忘れてはいけないことがあります。『投げる』という時点でリスクを伴うということです。投げるという行為は、人間の自然な体の動きとは異なる動きをしていることになりますから、怪我をするというリスクを伴います。いかに怪我からのリスクヘッジをするかなのです。体の動きと異なる動きをしているのに、1キロの負荷をかけていたら、10年で痛めるかもしれない。それが10キロだったら……ということです。
――手術に関していうと、日本にはメスを入れることについてはよしとしないように思いますが?
もちろん、手術をしなのが一番いいですが、最近では、日本でも変わってきていると思います。復帰できるという症例が出ていますからね。トミー・ジョン手術は90%以上が復帰できると言い方をしていますが、詳しくは95%前後とか、98%近くあるとまで言われています。どこをもって「復帰」とするかは判断が難しいですが、95%前後の確率で、メジャーに戻って投げています。
――だからダルビッシュは賢明な判断というわけですね。
彼はまだ若いです。まだ28歳ですから、回復力が高い。年齢を追えば追うほど、回復力が遅くなっていきますし、彼のコメントにもありましたが、もっとひどいけがになっていたら、もっと大変な手術になっていたかもしれないですから。
――小島さんは20代の時にトミー・ジョンを受けられています。今思い返すと、どのような経験でしたか?時代も違いますし、相当な覚悟があったのではないでしょうか?
私は若い時から手術をすることが多かったので、覚悟はできていました。それまでに4回も手術していたので、「まただ」というものでした。それが、2、3カ月で投げられるようになったのが、1年になった。それだけです。考えてもしょうがないんですよね。時間が経たないといけないことだからと、考えないことにしました。1日これだけやればいいっていうことを、365日、積み上げればマウンドに立てる。そういう風に考えました。絶望感もなかったですし、1年経ったら、投げられるという言葉を信じてやっていました。