好成績をあげても、立場は弱い? 今年もキャンプ招待選手から這い上がる、川﨑宗則【広尾晃の「ネタになる記録ばなし」】
ブログ「野球の記録で話したい」を運営中で『プロ野球解説者を解説する』(イーストプレス刊)の著者でもある広尾晃氏。当WEBサイトでは、MLBとNPBの記録をテーマに、週2回、野球ファンがいつもと違う視点で野球を楽しめるコラムを提供していく。今回は、川﨑宗則についてだ。
2015/04/01
Getty Images
MLB開幕直前、正念場の選手たち
NPBがついに開幕。これに続いてMLBも現地時間4月5日(日本時間6日)に開幕する。
日本的な感覚でいえば、今、各選手は「最終調整に余念がない」というところだが、MLBでは試合出場できるかどうかの「正念場」を迎えている選手がたくさんいる。
MLBでは日本でいうオープン戦が、開幕ぎりぎりまで組まれている。この試合は、単なる調整ではなく、最終的な「開幕ロースター(名簿)」に残る選手を決定するために、当落線上の選手をふるいにかけるテストでもあるのだ。
この時期、オープン戦に出場している選手のステイタスは、大きく分けて2つ。
「ACTIVE」はすでにMLBのロースターに名前がある選手。マーリンズのイチローやジャイアンツの青木宣親、ヤンキースの田中将大、マリナーズの岩隈久志らがそれに該当する。
「NRI(Non-Roster Invitees)」は、名簿にない招待選手。戦力的に足りない部分を補うために、MLBキャンプに招待して実力をテストする選手。ブルージェイズの川﨑宗則がそれにあたる。
よく知られているように、川﨑は毎年招待選手からスタートし、MLBに昇格している。だから、NRIからACTIVEになるのは簡単だと思われるかもしれないが、そうではない。
キャンプ開始時点で、NRIのステイタスで各球団のキャンプに参加する選手は合わせて400人以上もいるのだ。
MLB経験のないマイナー選手もいれば、かつてのスター選手も含まれている。今年でいえば、2005年に最多勝に輝いたドントレル・ウィリスも招待選手だった(彼はその後引退を表明)。
その中から開幕MLBを勝ち取る選手はせいぜい20人程度だ。
多くの球団は、レギュラー選手や先発ローテーション投手、救援投手がほぼ決定している。しかしキャンプ中に故障や不振で使えなくなる選手が必ず出てくる。NRIは、その「保険」でしかないのだ。
好成績をあげても、立場の弱い川崎
MLB各球団の公式サイトには、NRIの選手も掲載されている。ユニフォームを着て、背番号も与えられ、正選手と全く変わらないものの、その身分は非常に不安定なのだ。
川﨑宗則はNRIとして、ライバルとともに開幕ロースターを目指してしのぎを削っている。
3月31日時点のトロント・ブルージェイズ内野陣のオープン戦の成績。OPSは長打率+出塁率で、打撃の総合指標だ。
「マイナー」となっている選手は、すでに開幕ロースターの競争から脱落した選手。ブルージェイズのマイナーでプレーすることが決まっている。しかし、マイナー行きをせずにブルージェイズと帯同し、試合に出ている選手もいる。またこの時期になって引き上げられ、マイナー契約ながらMLBのオープン戦に出ている選手もいる。テストをしているのだ。同じNRIでも、チームに残ることができるとは限らない。契約によってはキャンプで不合格になれば、自由契約になる選手もいる。
遊撃手は、スター選手であるホセ・レイエスでほぼ決定。ディアズが控えで残ることができるかどうか。
三塁手は、アスレチックスから移籍したスラッガーのドナルドソンが確定。バレンシアは控えになる。
二塁手は激戦。本来ならばマイサー・イズトゥリスが正遊撃手だが打撃不振。そこでACTIVEのゴインス、トールソン、そしてNRIのトラビス、川﨑、サンチアゴが激しくポジションを争っている。
川﨑はOPSではトップ。しかし長打がないのが痛いところだ。
MLBでは、不振であっても実績のある選手を起用することが多い。また契約上の制約も多い。このケースでもイズトゥリスにアクシデントがなければ、開幕スタメンになる可能性は高いだろう。
実は川﨑は昨年、ブルージェイズの二塁手として最多出場している。「正二塁手だった」と言えなくもない。しかしそれは、昨年新加入したイズトゥリスが故障したからだ。
本来の正二塁手で、2016年までブルージェイズと4年契約(総額1200万ドル)しているイズトゥリスが元気ならば、優先的に起用することになる。川﨑の立場は弱いのだ。