運動科学から見た、打者・大谷翔平のパフォーマンスの高さと故障の要因
2018/06/18
Getty Images、運動科学総合研究所
大谷翔平選手が故障者リストに入ってしまった。メジャーリーグでもめったに見られない、あの美しいバッティングフォーム、あの美しいピッチングフォームがTV画面から、しばらくの期間でも消えてしまうのは実に寂しい。
運動科学研究の第一人者であり、5月7日に『肩甲骨が立てば、パフォーマンスは上がる!』を上梓した高岡英夫氏は、今回の大谷選手の右肘の故障の主たる原因を「MLBでも類を見ないほどの柔らかさを誇っていた肩甲骨の可動性が5月中旬を過ぎるあたりから急激に低下してきたこと」と分析する。
さらに高岡氏は「大谷選手のように肩甲骨を肋骨の上で大きく滑らかに動かすことができると、そのぶん肩関節と肘関節の負担は大きく減り、一方肩甲骨が腰の安定+キレを呼ぶので下半身のパワーが増し、上半身はただそのパワーに乗っていけばよいという関係になるので、二重の理由で肩関節と肘関節へのストレスが無くなる」と言い、「開幕から1カ月半、4月から5月半ばまでの肩甲骨の柔らかさと腰の安定+キレがキープできていれば、ピッチング、バッティングそれ自体で肘関節を故障することは決してなかった」と言い切る。
そして「身体の硬縮を緩解し疲労を積極的に解消するための専門的な体操法・マッサージ・休養法・栄養管理法などを上手に導入することで、肩甲骨周囲を中心とした全身の筋肉群の疲労による硬縮を恒常的に取り去り、2度と再び右肘を故障することがない体制をつくることが必要不可欠」と語る。
その高岡氏に大谷選手がMLB1年目の開幕スタートからなぜあれほどの素晴らしいパフォーマンスを発揮できているのか、運動科学を駆使した“大谷選手のパフォーマンス”の解析をしてもらった。
内角も外角も対応できる大谷選手
エンゼルスの大谷翔平選手が、期待に応えて素晴らしい活躍をしてくれています。向こうアメリカでは、1995年に野茂英雄投手がトルネード投法で、ストライキで観客が大幅に減っていたメジャーリーグに観客を取り戻すほどの注目を浴びましたが、今回の大谷選手の活躍をそのことになぞらえる人もいるぐらいです。このことは私たちにとってもたいへんうれしい話です。
なぜ、大谷選手がこれほどクリアな活躍ができるのかということを、運動科学の観点からお話ししたいと思います。
まずは5月11日の大谷選手が4番DHでスタメン出場した試合を思い出してください。本拠地でツインズを迎えての試合です。この時、相手のリン投手に外角を攻め続けられたのですが、第3打席で外角低めのツーシームを捉えて華麗にセンター左方向へ打ち返しました。
それには伏線があります。
2週間ほど前の4月27日のヤンキース戦で、開幕投手を務めたヤンキースの右腕セべリーノ投手が自信を持って投げた内角直球を、腕をたたんで見事に右翼スタンドへ軽々と放り込んだのです。セベリーノ投手のピッチングはメジャーリーグ的に言うと、厳しい内角攻めでメジャーの厳しさを教えてやろう、というような一球でした。このときの本塁打は仰角(※読み:ぎょうかく)の低いライナー性の当たりなのですが、打球の初速が112マイル(約180.2キロ)で、いわゆるメジャーリーグのホームラン打者の中でもトップレベルの打球速度を誇った一打だったのです。内角を突かれれば普通は詰まってしまうのが当たり前なのですが、それを弾き返して本塁打にするだけでなく、その時の打球速度がメジャーリーグの本塁打の中でもトップレベルだったというところに、大谷選手の今のパフォーマンスの高さがよく現れています。
5月11日のツインズ戦で立て続けに外角低めを狙われたのは、このような背景があったからでしょう。こうした事実は統計的なデータのひとつとして大谷対策に利用されていくわけですが、4月27日の試合後にセベリーノが言い残した「内角へのいい球だったが、それを運ばれた。脱帽するしかないよ。もう2度と内角には投げない」というコメントからも、ツインズ戦の外角低めを狙う動きにつながっていったことが読み取れます。