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運動科学から見た、打者・大谷翔平のパフォーマンスの高さと故障の要因

2018/06/18

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Getty Images、運動科学総合研究所



「立甲」の身体能力が見事に発達している

 さて、これほどまでに見事なパフォーマンスを、なぜメジャーに渡ったばかりの大谷選手が早々にできているかというと、その大きな理由のひとつとして、肩甲骨が肋骨からはがれて自由に広範囲に動ける“肩甲骨の自由度の高さ”が上げられます。
 
 内角を攻められて、そのまま打つと、当然ながらバットの根本に当たってボールは飛びませんし、バットも折られやすい。ですから、腕をたたんでバットを引きつけることによって、バットの芯でボールを捉えることがより重要になってきます。そのためには肘関節を曲げ肩関節を引きつけることが必要になりますが、そうするとバットのスイングの半径が小さくなりますから、バットが回る角速度(回転する物体の回転角度が一定時間にどれだけ速く進むかという度数)が上がります。角速度が上がるとバットヘッドは早いタイミングで回ってしまうので打球は引っかけたり引っぱり過ぎて左打者ならファスト側のファウルになりやすくなります。この時、さらに問題になってくるのが、内角球に合わせ、肘関節を曲げて肩関節を引き付ける状態になってしまうと、肩甲骨の自由度が低い選手では、肩甲骨が体幹(具体的には肋骨)に強く引き寄せられ固定されてしまうことです。
 
 そもそも肩関節と肩甲骨は一本の骨としてつながっていますし、上腕骨も肩甲骨周りの筋肉に引きつけられ肋骨に固定されてしまうので、腕からバットを振っていく動きの自由度が制限されてしまい、バットヘッドの回るタイミングを遅らせて正面返しをすることができづらくなり、さらにバットコントロールの精度も悪くなりますし、ヘッドスピードを上げることもできなくなります。バットコントロールの低下は空振りや打ち損いにつながりますし、このヘッドスピードを上げられないということも、実にとんでもなく大きなマイナスになります。なぜなら、バットヘッドの回るタイミングを何とか遅らせて正面返しに成功しても、ヘッドスピードの低下によりそもそも強い打球が打てなくなってしまうからです。
 このことを力学的に見ていきましょう。腕とバットの動きが体幹に固定されてしまうと、なぜヘッドスピードを上げられなくなるのでしょう? それは腰を切って回転させる動きと下半身を使った重心移動で、大きなエネルギーを得て、体幹は大きな運動量を持つことになるのですが、その大きな運動量を腕からバットが受け取ることができなくなるからです。
 
 詳しく見ていきましょう。内角攻めに対し腕をたたんでも肩甲骨~肩関節~上腕骨が自由に動けば、体幹の大きな運動量は、肩甲骨~肩関節が受け取って加速し、次に腕が受け取ってさらに加速し、次にバットが受け取りさらに加速して、最終的にボールを捉えることで高速化された運動量として伝わっていくのです。そして、それが速い打球速度でボールが飛んでいくことにつながるわけです。
 
 大谷選手は肩甲骨がはがれて自由に動くことができるので、腰の切れ回転と重心移動から生まれる強大な運動量を体幹→肩甲骨→肩関節→腕→バットの流れでロスなく高速変換し、ボールに伝えることができるのです。(詳細は別の機会に回しますが、体幹内の腰→肋骨の運動量の変換も大谷選手は優れています。)
 4月27日のヤンキース戦でセベリーノ投手の厳しい内角球を腕をたたんで右翼スタンドへ軽々と放り込んだ、しかもその打球速度が112マイルというMLB最高速レベルにまで達していた、というバッティングのメカニズムがお分かりいただけたでしょうか。
 
 腕を力まずにたたむ、バットヘッドの回りを遅らせる、ボールをバットの芯でとらえる正確なボール認知とバットコントロール、そして何よりも腕をたたんでバットヘッドの回りを遅らせることによるマイナスをこえてバットのヘッドスピードを最大化できる、すべての中心である軸が通り体幹が安定する、こうした一連の高度な能力は、何よりも肩甲骨が肋骨からはがれて自由に動けることに、支えられているのです。
 
 この肩甲骨が肋骨からはがれて自由に動けることを「立甲」といいます。大谷選手は、この「立甲」の身体能力が見事に発達しているのです。
 
■立甲の正しい方法とNG(四つん這いの状態で身体を頭の方向から見た図)
 

 

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