DL入りも、田中将大の新しい投手像はすでに完成【小宮山悟の眼】
ニューヨーク・ヤンキースの田中将大が4月29日、右手首のけん炎と右前腕部の張りのため15日間のDL(故障者リスト)に入った。しかし、今季取り組んでいる「力感のないフォームから打たせて取る」投球スタイルへの変換は、田中の進化につながるはずだ。
2015/05/04
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田中が目指す新しい投手像は完成されている
田中が目指す新しい投手像が、もっともよく表れたのが、4月18日のレイズ戦だろう。7回を投げ、投球数は85球。味方が大量リードして攻撃時間が長くなったため7回で降板したが、3、4点のリードなら完投・完封できていたペースだ。それに「打たせて取る」というイメージがあったかもしれないが、奪三振数は8を数える。こういう風にしてバッターを打ち取っていくんだというスタイルが明確になった内容だった。
メジャー2年目を迎え、打者の特徴も理解してきているはずだ。こういう感じで追い込んで抑えるという投球の組み立てを本人もイメージしやすくなっているだろう。これが田中の目指すべき新しいスタイルだ。
彼の楽天時代の最終年。24勝0敗の神がかった成績を残した当時の投球スタイルを思い返してみてほしい。常にリラックスして投げながら、ピンチを迎えたらギアをチェンジする。そうやって勝ち続けていたではないか。
実際、現在のメジャーでも先発投手がこのスタイルを目指すことは当然となっている。力いっぱい放り続ける先発投手などどこにもいない。15勝をマークするよりも、シーズンで230イニング投球するほうがはるかに評価される。そういう風潮なのだ。
全力投球するのは、ブルペン投手だけ。先発と中継ぎ・抑えの違いは、ただ単にマウンドに上るシチュエーションだけではない。求められる投手としての能力自体がまるっきり違ってきているのだ。それは日本球界でもいえることだが、メジャーではよりはっきりと違いが浮かび上がっている。
黒田博樹とイチローがチームを去り、ヤンキースでプレーする日本人選手は田中だけ。大先輩2人に挟まれた昨年からは状況は一変した。ヤンキースタジアムに来ている日本人メディアはすべて彼を取材しに来ているわけだ。いくら2年目とはいえ、名門球団で日本人選手が一人でプレーして、いろいろなことを背負い込まなければならない状況は、素直に大変だなと思う。
そんな状況だからこそ1日も早いDLからの復帰を願っている。そして、本人が「昨年はいきなりトップギアで投げてしまった」と表現したスタイルから脱却できたことを証明してほしい。
田中がメジャーで目指すべき新しい投手像は、すでに完成している。
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小宮山悟(こみやま・さとる)
1965年、千葉県生まれ。早稲田大学を経て、89年ドラフト1位でロッテ・オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)へ入団。精度の高い制球力を武器に1年目から先発ローテーション入りを果たすと、以降、千葉ロッテのエースとして活躍した。00年、横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)へ移籍。02年はボビー・バレンタイン監督率いるニューヨーク・メッツでプレーした。04年に古巣・千葉ロッテへ復帰、09年に現役を引退した。現在は、野球解説者、野球評論家、Jリーグの理事も務める。