田中将大の投球フォーム ヒジの故障によって変わった「トップの位置」
プロの第一線で活躍する選手たちは、どのように体を動かしてピッチングやバッティングのフォームを構築し、結果を残しているのか。そのメカニズムを探るべく、筑波大学硬式野球部の監督で、投球や打撃フォームについて独自の解析・研究を行っている、筑波大学体育系准教授の川村卓さんに話を聞いた。その第1回目のテーマは、ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手。昨季からの懸念材料となっている右ヒジの故障は、田中投手の投球フォームにどんな影響を及ぼしているのだろうか。
2015/05/09
Getty Images
上半身に比べて変化が見られない下半身の使い方
今季の田中投手は、球種におけるストレートの割合が減ったと言われていますが、投球フォームの変化とどこまで因果関係があるかは、はっきりしたことは言えません。
ただし、腕のしなりを効かせた投げ方と比較して腕をコンパクトにしている分、ボールに威力やスピードが生まれにくくなっているとは思います。シーズンが進み、徐々にフォームが合ってくれば、また変わってくるのではないでしょうか。
また、ツーシームが球種として増えたと言われています。投げ方にもよりますが、ツーシームは基本的にストレートと変わらないフォームで投げられるボールです。ヒジに過度なひねりが入らない分、負担はかかりにくいと思います。
あとは、下半身の使い方ですね。今季はどこまで下半身の使い方を変えてくるかと見ていましたが、現在までのフォームを見る限りは、あまり変えているようには見受けられません。
このあたりが、今後のピッチングにどう影響するかでしょうね。メジャーのマウンドは日本のものと比較して硬く、踏み込んだ脚のヒザが固定されてしまうため、下半身のスムーズな体重移動が難しいことは周知の通りです。
もともと、田中投手はステップを広く取り、下半身をうまく使って投げるタイプのピッチャーですから、上半身や腕の使い方がこれまでと異なる分、新たに適応する方法を探る必要があるのかもしれません。
多くのメジャーの投手がそうであるように、より上半身のパワーに依存した投げ方を目指すのか。あるいは、踏み込んだあとに臀部を上げる動作を組み込んで、下半身のパワーを上半身へと伝えるのか。
実際、現在のフォームは、フィニッシュにおける上半身の使い方に変化が出てきています。肩をグッと前に出してから腕を振りきることで、肩やヒジにかかるストレスを軽減させる投げ方を取っているようです。
現在、右前腕部の張りと右手首の炎症によって故障者リストに入っていますが、まだフォームを模索しているのとツーシームの多投が原因ではないかと思います。理由としては、ツーシームは覚え立てのころは曲がり幅など調整が難しく、その調整を指先の力加減で行わなくてはなりません。そのため、手首周りや前腕に負担がかかったのだと思います。しかし、本当のところは肘まで負担が来ているのかもしれません。これはあくまで私の見解です。
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川村卓(かわむらたかし)
筑波大学体育系准教授として教鞭をとりながら、同大学の硬式野球部監督も務める。札幌開成高時代は夏の甲子園に出場。現在は、野球選手の投球フォームや打撃動作における身体メカニズムを分析し、野球の現場で役立つ研究を行っている。