トレーニングは広場でタイヤ叩き。グラウンドはデコボコが当たり前。それでもMLB選手が育つ理由とは【ドミニカ野球奮闘記#2】
外国に籍を置くMLB選手のうち、およそ4割がドミニカ人選手と言われている。数多くの選手を輩出しているドミニカの野球アカデミーには、日本とは異なる育成環境がある。異国の地に飛び込んだ日本人の少年を追いながら、スター選手が育つ土壌を探る。
2019/05/22
高橋康光
プロの道へのタイムリミット
こうした日本とドミニカの環境の違いの中でも大きく異なるのが、プロになるまでのリミットだ。プロの選手を目指すドミニカの少年たちは、15、16歳の時点でMLBのアカデミーに入ることができなければプロへの道がほぼ絶たれてしまう。例えば、前回の記事では凱君が「ドミニカ人は四球で出塁することに悔しがる」ことに驚いたというエピソードを紹介したが、彼らにとって四球での出塁は、コーチやスカウトの前で、“俺は打てる”“俺は走れる”ということをアピールする貴重な一打席を失ったことを意味するのだ。
ドミニカの少年カテゴリーでは、概して勝利が優先されることはない。少年野球レベルでも、サインプレーやチームプレーを駆使しながら勝利を目指す日本とは異なり、勝利よりも個人のポテンシャルを生かすことが優先されるのだ。アカデミー側にとっても、自分のアカデミーの選手が、MLB球団のアカデミーと契約することで生じるマージンを主な収入源としているので、勝利よりも、最終的にメジャーに辿り着ける選手を育てることに自然と重きを置く。凱君が驚いたというドミニカの少年たちの自己主張やアピールの強さは、彼らの人生の行く末が早期に決まってしまうことと無関係ではないのだ。
一方の日本では、たとえ高校時代に芽が出なくても、大学、社会人、独立リーグといった次のカテゴリーで花が咲くケースは珍しくない。年齢的にも25、26歳くらいまではプロ野球選手になるという夢を追い続けられるという点で、ドミニカの少年たちよりも時間的に猶予が与えられていると言えよう。
前回にも触れたが、凱君が所属するウレーニャ氏のアカデミーには、ドミニカの生存競争から離脱してしまった17歳以上のプレーヤーも少なくない。かくいう凱君自身も17歳ということで、ドミニカに身を置く上では、もはや若くはないのだ。そんな厳しいドミニカの現実を目の当たりにしながらも、この新しい環境を「楽しい」と凱君は言う。楽しんでプレーする気持ちを追い求めてやって来たドミニカの地で17歳の凱君は日々逞しさを増している。
高橋康光
第3回
凱君のドミニカ挑戦の様子は、下記ツイッターアカウントよりご覧いただけます
『ドミニカ共和国チャレンジ』