手術論を一蹴 「速球にキレ戻った」田中将大、復帰戦で満点快投
田中将大の復帰戦は完璧な投球内容だった。首脳陣の予想をいい意味で裏切り、田中の戦線復帰はヤンキースにとって非常に大きい。
2015/06/05
Getty Images
厳しい球数制限をクリアし、最高の投球
非の打ち所がない復帰戦だった。ヤンキースの田中将大が3日のマリナーズ戦に先発。4月23日のタイガース戦以来41日ぶりのメジャー登板で、7回を3安打1失点。右手首の腱鞘炎と、右前腕部の張りによるDLからの復帰戦を白星で飾った。
「今日はすごく良かった。すべての球種が良かったと思いますし、バランスよくすべての球を投げることができました」
自身のサイトでも、満点に近い内容に言及している。病み上がりの田中に対し、首脳陣は80~85球がメドという球数制限を設けていた。少しでも粘られれば、5回を投げ抜くことさえ難しいタイトな条件。それでも78球で7回を投げ抜き、三振を9つも奪ってみせた。
特に目を見張ったのが、直球の威力だ。この試合の最後、シーガーから見逃し三振を奪った1球。そのこん身の力で投じた78球目は、メジャー自己最速タイの96マイル(約154km)を計時した。この1球に限らず、速球系の平均速度は、離脱前の4試合を上回った。
この球速のキレが副産物をもたらした。横の変化だ。田中といえば代名詞はスプリット。マリナーズとは昨年6月11日の対戦で、この落ちる魔球を武器にメジャー自己最多タイの11三振を奪った。おそらくマリナーズ打線の印象も、その1点に集中していたはずだ。
この日は正捕手のブライアン・マキャンが2回の打席で右足を痛めて負傷交代した。1回はスプリットが軸の組み立てだったが、2回以降、控え捕手のジョン・マーフィーはスライダーを軸に据えリード。この縦から横への変化が功を奏した。
2回のクルーズ、3回のズニーノ、ジャクソンから奪った見逃し三振は、すべて右打者内角のボールゾーンからストライクゾーンに入ってくるスライダー。いわゆる「インスラ」を、今流行りのフロントドアから通した格好だ。
フロントドアはスライダーだけにとどまらない。2回のシーガー、3回のモリソンと2人の左打者に対しては内角をえぐって腰を引かせておいて、ストライクゾーンへ戻るツーシームで見逃し三振。両サイドを自由自在に通してみせた。
フロントドアの軌道は、一歩間違えると大ケガにつながりかねない。少しでも制球が甘く真ん中に入ると、打者にはまさに打ちごろ。逆に、投球してくるイメージがなければ、打者は反応できず見逃すしかない。もろ刃の剣とも言えるコースだが、この日は効果的だった。キレのあった速球と、無四球で終えた制球力、そして相手打線のイメージを裏切ったマーフィーの好リードなどの賜物だった。