「打たせて取る」黒田博樹の投球術も参考? データが語る、田中将大の新スタイル【広尾晃の「ネタになる記録ばなし」】
ブログ「野球の記録で話したい」を運営中で『プロ野球解説者を解説する』(イーストプレス刊)の著者でもある広尾晃氏。当WEBサイトでは、MLBとNPBの記録をテーマに、週2回、野球ファンがいつもと違う視点で野球を楽しめるコラムを提供していく。今回は、故障からの完全復活を見せている田中将大の新しい投球スタイルについてだ。
2015/06/16
Getty Images
「打たせて取るピッチング」を身につけた田中
田中の変化をより詳細なデータで見てみる。
同じく月次の成績。平均投球回数は投球数を先発数で割った数値。投球数とその詳細な内訳、そして9回あたりの四球、三振数であるBB9、SO9。さらにゴロアウト数をエアアウト(フライとライナーによるアウト)数で割ったGO/AOの数値を出した。
平均投球回数が大幅に増えた。先発投手として7回を投げることができれば文句はない。
注目すべきは1回あたりの投球数だ。2014年の好調時の田中は、1回当り14.5球前後で投げていた。悪い数字ではないが、三振を奪うためにそれなりに球数をかけて打者を料理していたのだ。しかしDL入り後は、この数字が悪化し、安打を打たれたり、四球を出したりして球数がかさんだ。一方、今年の6月は12.33と急激に改善。少ない球数でアウトカウントを稼いでいることがわかる。
田中自身、肘に故障を抱えているから多くの球数を投げることができない、という自覚があるのだろう。ストライク先行で早めに打ち取ることを意識している。
6月のストライク%は7割弱。これは先発投手としてはトップクラスの数字だ。空振%は、球のキレをあらわすとされるが、この数字も改善している。
決定的に違うのは、GO/AOの数値だ。
2014年、故障前の田中は速球を主体とするパワーピッチャーだった。フライアウトが多く、GO/AOは、1.5を割っていた。ゴロを打たせて取る投手ではなかったのだ。
2015年6月に復帰してからの田中は、GO/AOが2.0。ゴロアウトのほうがフライ、ライナーのアウトの2倍もある。今日の試合などはゴロアウトが10、エアアウトが3だった。
復帰後の田中が、安定感のある投球ができているのは、三振にこだわらず「球数少なく」「打たせて取る」ことに徹しているからだ。
投球内容を見ていると今の田中の投球は、元ヤンキースの先輩投手によく似ていることがわかる。
黒田博樹だ。黒田はシュート回転して沈むツーシーム(MLB公式サイトではシンカー)と、スプリットでゴロの山を築いたが、6月に復帰後の田中もツーシームを主体に投げ、スプリットを決め球にしてゴロアウトを稼いでいる。
昨年、田中は黒田とシーズンを共にして、その投球術を学んだに違いない。2度のリハビリを経て、それを自分のモノにしたのだろう。
田中がすごいのは、黒田のような投球術をしながらも、いざと言うときには三振が奪えることだ。今日のイチローとの対戦の3打席目、イチローを見逃し三振に取った152km/hの速球は圧巻だった。ギアチェンジした田中のすごさを物語っている。
今日は94球を投げたが、今後も球数制限をしながらの登板になりそうだ。それでも田中は限られた条件の中で、自らの投球術を磨き上げていくはずだ。
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