チームの大躍進にハッキング被害 アストロズのジェフ・ルーノーに見るGMの資質【豊浦彰太郎の Ball Game Biz】
緻密な分析と戦略立案を得意とする元経営コンサルタントのアストロズGMジェフ・ルーノー。彼の成功と躓きには、現場出身ではない現代のGM像が凝縮されている。
2015/06/30
Getty Images
ポストシーズン進出で評価を上げることができるか
最後は、微妙な評価の事例だ。6月上旬のアマチュアドラフトで、全体17位の指名権を持つインディアンスが指名した18歳の左腕投手ブレイディ・エイケンは、この春にトミー・ジョン手術を受けたばかりだったことが話題になった。実は、彼は前年のドラフトでイの一番の指名権を持つアストロズに指名された超有望株だった。
ドラフト直後、アストロズとエイケンは650万ドルで契約近しと報じられたが、契約前の身体検査でヒジに異常が見つかった。それは明確な靭帯の損傷ではなかったようだが、リスクを感じ取ったルーノーは一気に提示条件を320万ドルまで下げた。結局、両者は歩み寄ることができず契約不成立となった。全体1位指名の「商談」を纏め上げられなかった事そのものも不名誉だが、この年のアストロズはエイケンとの契約に失敗した余波で、5巡目指名の右腕投手ジェイコブ・ニックスまで取り逃がしてしまったことで、ルーノーは非難にさらされた。
実はメジャーのドラフトでは、「スロット」と呼ばれる契約金上限枠が10巡目指名までの総額と指名巡ごとに設定されている。アストロズはエイケンに1巡目指名の上限金額の790万ドルを投入せず650万ドルに留め、差額を5巡目のニックス獲得資金にあてようと目論むも、エイケンの契約が不成立になったため、1巡目用の上限790万ドルをまるごと総額スロットから失い、ニックス獲得資金が不足してしまったのだ。このことで、ルーノーへの評価は地に墜ちた。結局は「机上」のスキルだけで、「実践」は不得手ではないのか、ということだ。
しかし、そのエイケンは前述の通り4月に手術を受けた。実戦での登板が可能になるのは、早くても来年の今頃だ。安易に妥協しなかったルーノーの判断は間違っていなかったことになる。しかも、エイケンには320万ドルを提示しておいたために、今年のドラフトで1巡目の補完指名権まで得ることができた(この金額は、翌年の補完指名権を得るために必要な不成立指名のスロット上限の40%に当たる)。このことは、ルーノーの失地回復には役立った。
以上を総括すると、優秀な分析家ではあるが血の通った交渉は不得手で求心力には課題が残る、というルーノーの人となりが感じ取れる。
しかし、得手不得手があり、失敗もあるのはどのGMも同じだ。あのビリー・ビーン率いるアスレチックスも毎年ミラクルを演じているわけはない。また、ヤンキースのブライアン・キャッシュマンにしても、世界一回数やプレーオフ進出回数は群を抜いているが、これまで大金をドブに捨てた契約も枚挙にいとまがない。
ルーノーへの評価を下すのはもう少し先にすべきだろう。まずは7月のフラッグディールでどうチームを補強し、10年ぶりのポストシーズン進出を果たせるかどうかに注目したい。
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