ブリュワーズ救援左腕が主張した「時代遅れの評価システム」。求められる“最適の役割”への理解
2020/02/19
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重きを置くべきは「イニング」ではない
ミルウォーキー・ブリュワーズの左腕ジョシュ・ヘイダー投手が今季の年俸を巡る調停に敗れた。ヘイダーは年俸640万ドル(約7億円)を主張したものの、調停の結果、ブリュワーズがオファーしていた410万ドル(約4億5000万円)に決定した。
メジャー在籍期間が3年以上、6年未満(FA権利未取得)の選手には年俸調停の権利が発生する。また在籍2年でも登録日数がトップ22%に入る選手も「スーパー2」として調停権利を得られる。2017年6月にメジャーデビューを果たしたヘイダーはまだメジャー在籍期間が3年に満たないが、昨年はブリュワーズのクローザーとして年間を通して活躍し、この「スーパー2」の条件を満たした。
年俸調停の権利が得られるまでの間、つまりメジャー昇格から3シーズンは、たとえスーパースターであっても年俸はMLBが定める最低保証年俸に近い金額に抑えられるのが通例である。
2018年シーズンのヘイダーは55試合に登板して81回1/3を投げ、6勝1敗、21ホールド、12セーブ、防御率2.43、143奪三振、被打率.132、WHIP0.81という素晴らしい成績でナショナル・リーグの最優秀救援投手に贈られる「トレバー・ホフマン賞」を受賞した。それにもかかわらず、翌2019年のヘイダーの年俸は68万7600ドル(約7500万円)だった。ちなみに、MLB最低保証年俸は56万3500ドル(約6180万円)である。
そして、昨季2019年のヘイダーはクローザーに定着し、61試合に登板して75回2/3を投げ、3勝5敗、6ホールド、37セーブ、防御率2.62、138奪三振、被打率.155、WHIP0.81という前年に匹敵する活躍を見せた。オールスターに2年連続で選出され、シーズン後には「トレバー・ホフマン賞」にも2年連続で輝いている。
満足する評価を球団からも調停委員会からも得られなかったヘイダーだが、救援投手をその役割(中継ぎ、セットアッパー、クローザーなど)によって査定するシステムがその原因だと主張している。
かつての救援投手は7回、8回、9回のイニングごとに役割を固定されてきたが、現在のコンピューターによるアルゴリズムは相手打線を分析して、状況に応じて最適の投手を選び出す。その結果、場合によっては4回途中に相手打線の中軸打者たちを抑えるために自分が起用されることもあり得るとヘイダーは語った。
「私たち救援投手を評価するシステムが時代遅れなのです。今や私たちが登板するタイミングを決める主要因は相手打線によるもので、どのイニングかではないのです」
ヘイダーは2017年と2018年には主に中継ぎで起用され、複数回を跨いでマウンドを守ることが多かった。2019年はコーリー・クネイブル投手が肘の故障で戦線離脱したのをうけ、チームのクローザー役を担った。その後も9回イニング限定のクローザーではなく、7回、8回からマウンドに上がることが何回もあった。
そうしたヘイダーのユニークな特徴が正当に評価されたのかどうかは疑問の残るところだ。MLBの年俸調停では、選手と球団のそれぞれが主張する金額のどちらか一方が委員会によって採用される。NPBの調停では両者の中間で「丸く」収まることがしばしばあるが、MLBではそれはあり得ない。
常に「勝つか、負けるか」であり、調停というより裁判と訳すべきかもしれない。実際のところ、今回のヘイダーに関するニュースも「ヘイダーが1-6でブリュワーズに敗れる」といった見出しで報じるメディアが多かった。
選手にも球団にもリスクがあるので、年俸調停の資格があっても、「調停を回避して契約合意」というケースが殆どであり、実際に調停が行われるケースはむしろ少数である。結果がどうなっても双方にしこりが残ることも多い。そのためか、ブリュワーズのデビッド・スターンズGMはわざわざ「ヘイダーに対して悪感情はないよ」と発言している。
今オフはヘイダーの他に、エドゥアルド・ロドリゲス投手(ボストン・レッドソックス)、ジョク・ピーダーソン外野手(ロサンゼルス・ドジャーズ)、ホセ・ベリオス投手(ミネソタ・ツインズ)、シェーン・グリーン投手(アトランタ・ブレーブス)、トニー・ウォルターズ捕手(コロラド・ロッキーズ)らが年俸調停に持ち込み、ことごとく球団側の勝利に終わっている。唯一勝利したのはペドロ・バイエズ投手(ドジャース)のみである。
ヘイダーのチームメイトで同じく救援投手でもあるブレント・スーターも資格があったが、ヒアリング予定日の前日になって年俸調停を回避して球団と2年契約を結ぶことに合意した。これによりブリュワーズは全選手との契約が終了し、2020年シーズンに臨むメンバーが決定した。
角谷剛