インド人初のマイナーリーガーからプロレスラーへ。映画『ミリオンダラー・アーム』の実名モデルが歩む第2の人生
2020/04/03
Getty Images
新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中でありとあらゆるスポーツイベントが中止や延期となっているなか、米国の大手プロレス団体WWEは無観客開催による興行を続けている。そのWWE傘下で経験の浅いレスラーを育成する“マイナーリーグ”的な存在として知られるNXTのテレビ番組において、元ピッツバーグ・パイレーツのマイナー組織に所属していたリンク・シンが3月25日(日本時間26日)にデビューを果たした。現在31歳のシンはインド出身。映画『ミリオンダラー・アーム』に実名で登場する2人のインド初となるプロ野球選手のうちの1人である。
『ミリオンダラー・アーム』は実際に2008年にインドで行われた同名のリアリティー・ショーで優勝したシンとディネシュ・パテルの2人を描いた実話に基づいた映画だ。やり投げとクリケットの選手だったシンは、3万人以上が参加したこのコンテストでパテルとともに優勝し、主催者のスポーツ代理人に連れられてアメリカへ渡った。
翌2009年に、ピッツバーグ・パイレーツと投手として契約を結んだシンは、傘下ルーキーリーグのガルフ・コーストリーグ・パイレーツでインド人初のプロ野球選手として第一歩を踏み出した。入団時の契約金はパテルと2人合わせて8000ドル(約86万円)だったと当時の報道にある。
シンはマイナーリーグで5年間を過ごし、85試合に登板し、10勝6敗、防御率2.97の成績を残している。3年目の2011年には1Aまで昇格したが、肘による故障とトミー・ジョン手術によって2013年から2015年までの3年間を全休し、2016年に復帰するもルーキーリーグで1試合に出場したのみで、その年に野球界を引退した。その間、オーストラリアのプロリーグにも2回派遣されている。
昨年MLBオールスターでホームランダービーにも出場したパイレーツのジョシュ・ベル内野手とは2012年に同じチームでプレイしたチームメイトで、今でも親交があることをベルがツイッターでシンとのツーショット写真を公開している。
シン自身も公式ツイッターでそのビルドアップされた肉体とトレーニングの様子をたびたび披露している。マイナーリーガー時代のシンのプロフィールには身長188センチ、体重86キロとあるが、プロレスラーとなった現在はそれからかなり体重を増やしているように見える。
シンはやり投げでインドのオリンピック候補だったとインタビューで語ったことがある。生まれて初めて野球のボールを握ってからわずか数か月の練習で150キロ近い速球を投げたことからも、シンが並外れた身体能力を持っていることに疑いの余地はない。野球のマイナーリーグからプロレスのマイナーリーグへと舞台を移し、アメリカンドリームを追い続けるシンが、新しいスポーツではメジャーに這い上がる日は来るだろうか。
角谷剛