2021年、大谷翔平が本塁打を量産できる宇宙人的メカニズム―スルスルラクラクに動く肩甲骨―(第1回)
現地7日に行われたレッドソックス戦で今シーズン32号本塁打を放ち、2004年に松井秀喜選手が記録した日本人の年間最多本塁打記録を塗り替えた大谷翔平。野球の母国アメリカで「ありえない」「地球人ではない」「宇宙から来た」と絶賛されている2021年シーズンの大谷だが、宇宙人と言いたくなるほど他の選手とは異なるそのパフォーマンスの中身、つまりはその脳と身体が織り成すメカニズムとは何なのか。結果としての記録や評価(人気、騒ぎも含め)よりも、真の“原因”こそ知りたいという玄人の読者のために、5月に『背骨が通れば、パフォーマンスが上がる!』(カンゼン刊)を上梓した高岡英夫氏が高度運動科学による分析を随筆風にお届けする。(全2回構成)
2021/07/13
圧倒的自由自在な対応力とスレンダーなハイパワー
大谷の本塁打シーンを思い浮かべてほしい。今シーズン当初話題になった上半身の、中でも肩周りの三角筋や上腕二頭筋・三頭筋を使ってバットをブンブン振り回している印象が全くないことが分かるだろう。下半身もシッカリ体重を支えながらも可能な限り力を抜きバランスよく立っている印象で、ガシッと力強く踏ん張っている感じは全くないであろう。そういえばバッターボックスに入り、投手に視線を送りつつバッティングポジションを取っていく姿は、発達した筋肉のわりにタラーンとして美しくスレンダーな印象すら、あるではないだろうか。
厳しく高めに伸びる速球、膝より下に落ちる超低めのツーシーム、そして外角低めに逃げるボール玉と、いかなる多様な攻めにも全身のすべての部分が恐ろしいほどの短い時間のうちに理想的に自由自在に変形し、全く矛盾なく「誰が考えたの??」と思いたくなるほどの独創的なフォームで対応する。もちろんどのコースもその姿勢であり得ないだろうというハイパワー、ハイスピードのスイングで、ライナーでも大飛球でも、スタンドへ運んでしまう。
ボールに180km/hものスピードを与えるのは“力”ではなく“運動量”だということはすでに知られていることと思うが、そのことから考えるならば、大谷の肩や腕の筋肉が腕を通してバットまで各パーツを加速しつつ運動量を運ぶ働きをすると同時に、その大前提としてバットと一体となって巨大な肩~腕~バットという一体の“質量”として働いていることが分かる。肩をS、上腕をA、前腕~手をH、バットをBで表すと、この肩からバットまでの全運動は各パーツ、S、A、H、Bが一つの質量体(SAHB)でありつつ同時に、各パーツ間で加速しつつ運動量を伝達するという連動(S→A→H→B)が積算される関係であるから、(SAHB)×(S→A→H→B)と表現することができる。これはもちろん数学のマネ事に過ぎないが、実は意外にも大谷の「ありえない」圧倒的自由自在な対応力とスレンダーなハイパワーの共存共在を説明できる、面白い工夫なのだ。