来季がラストイヤー 専属アナ67年「ドジャースの声」を続けられた理由【豊浦彰太郎の Ball Game Biz】
ドジャース専属アナで87歳のビン・スカリーが、来季も続投することが発表された。彼自身の力量はもちろんだが、そこまでの長期政権の理由は他にもありそうだ。
2015/09/01
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将来は「野球殿堂」入りの可能性も?
最大の理由は、基本的にメジャーでは地元向け放送のアナウンサーや解説者はテレビ・ラジオの放送局ではなく、球団の所属(または契約)ということだろう(FOXやESPNなどによる全国放送は別だ)。したがって、局アナにつきものの「人事異動」もない。スカリーは極端な例としても、1971年からブリュワーズのラジオ放送を担当するボブ・ユッカーなど、長期に亘り同一球団のアナウンサーを務めている人物は実は少なくない。
もうひとつは、シーズン中は原則として毎日開催されるベースボールは試合数が少ないフットボールなどとは異なり、マンネリ性を楽しむエンターテイメントでもある点も挙げられるかもしれない。
人々は、球場へ向かうクルマのラジオから、今日もスカリーの声が聞こえてくることで心の安心を得て、到着するといつもと同じホッドドッグを食べ、セブンスイニングストレッチで歌うのだ。
最後に付記しておこう。それこそアメリカのメディアでも、ビン・スカリーやボブ・ユッカーを「殿堂入り」の名アナウンサーと紹介するケースが見受けられるが、それは正しくない。
毎年野球殿堂から優れた放送マンに「フォード・C・フリック賞」が、同じくジャーナリストには「テイラー・スピンク賞」が送られる。スカリーは1982年に、ユッカーは2003年に前者を受賞している。これをもって「殿堂入り」と評しているようなのだが、これは野球殿堂に表彰されることであって、野球殿堂に入ることではない。
そもそも、全米野球記者協会による選手の選出やベテラン委員会によるエグゼクティブの選出はいわば外部団体によるものだが、「フリック賞」や「スピンク賞」は殿堂自身が授けるものだ。
このことは、実際にクーパースタウンを訪れてみると理解できる。「殿堂入り」の選手や関係者の銅板は文字通りHall of Fame(栄誉の殿堂)という「ホール」に飾られているが、「フリック賞」「スピンク賞」受賞者のプレートはデザインもサイズ(とても小さい)も異なるもので、同じ施設内の全く別の場所に展示されている。
これは、「フリック賞」や「スピンク賞」の価値が「殿堂入り」より劣るという意味ではない。単に異なる制度なのだ。しかし、将来スカリーのアナウンサーとして史上初の「殿堂入り」を求める声が高まる可能性は十分あるだろう。