昨年は失敗も、躊躇せず「奇策」を実行――勝利をもたらす巨人・原監督の稀有な決断力
10日に行われた阪神―巨人戦の9回二死一、三塁。打者・鳥谷の場面で巨人ベンチにいた吉川が外野に向かって走り出した。原監督は下がりすぎずに前で守るように指示をした。昨年も同じ阪神戦で内野5人制を敷き裏目に出たが、この大胆で類まれな決断力こそ、原監督ならではの采配ではないだろうか。
2015/09/13
奇策が成功してV戦線に踏みとどまる
非常に珍しい光景だった。
10日に行われた阪神―巨人戦の9回二死一、三塁の場面。打者・鳥谷を迎えたところで巨人ベンチにいた吉川が外野に向かって走り出した。
原監督からの伝言を大西外野守備走塁コーチから受け、左翼・亀井、中堅・立岡、右翼・長野に対し「伝令役」として伝えに行ったのである。
まるで、つい先日まで同じグラウンドで行われていた夏の高校野球のようなシーンに甲子園のスタンドからはどよめきが起こった。さて一体、ここでは外野3人に何が伝えられたのか……。
試合後に巨人サイドから明かされたところによると、それは守備位置の確認だったという。
この時点でのスコアは5-4で巨人が1点リード。一塁走者まで本塁生還を許してしまえば逆転サヨナラ負けを喫してしまう。
こういうシチュエーションでは一打逆転につながる長打を防ぐために本来ならば外野は定位置から後ろに下がるのが通例だが、原監督は「そんなに下がらなくていい」と逆に前で守るように指示した。
前日9日の試合では延長11回に鳥谷に詰まりながらもサヨナラ負けにつながる中前安打を打たれている。
だからこそ、そんな鳥谷の巧みなバットコントロールを警戒しての「奇策」だった。結局、鳥谷は内野ゴロに終わってゲームセット。結果として外野へ打球は飛ばなかったが、これは一歩間違えば危険な賭けとも言えた。
確かにここで鳥谷が外野へ前日と同じような詰まり気味の飛球を打てば、原監督の采配はドンピシャリ。しかし、もし前進守備だった外野陣の頭上を超える当たりになっていたとしたら長打となり、それこそ目を覆う結末となっていた。
ただ、そういうリスクを承知の上で、あえて思い切ったシフトを指示した原監督の決断力はやはり並ではない。
逆の目を恐れるが余りに物怖じして動けない監督などベンチには不要だ。
特にこういうシーズン佳境の大勝負では、このような指揮官のスパッと決断するベンチワークが雌雄を決することも多々ある。決断すべき場面で動かずに負けてしまい、後で〝たられば〟の弁明を口にしたくない。動かずに後悔するよりも、動いて後悔するほうがよっぽどいい。原監督は、そういうスタンスを抱いているに違いない。