【中島大輔 One~この1人をクローズアップ】相内誠、飛躍の3年目とするために必要なスーパーな武器
ある試合の象徴的なワンシーンを切り抜き、その場面の選手の心理や想いを取り上げる連載企画。10月以降はシーズンオフということもあり、試合のワンシーンではなく1人の選手をクローズアップしていく。第4回目は、埼玉西武ライオンズの相内誠だ。飲酒や喫煙……たびたび生活面で問題を起こしつつも、球団は相内の才能を信じて彼と向き合ってきた。そして、今年は2軍で結果を残し、1軍での初先発も経験した。二回の1軍登板から相内にとって収穫と課題が見えてきた。
2014/10/21
ホロ苦い一軍デビュー
「誰もが通る道だからな」
10月上旬、西武第二球場で練習していた相内誠にそう声をかけたのは、入団時に監督を務めていた渡辺久信シニアディレクターだ。
「たぶん、ダメだろうなという感覚で見ていました」
12年ドラフト2位で入団して以来、誠を最も身近で見守ってきた潮崎哲也二軍監督は、記念すべきマウンドをそう振り返っている。
プロ入り初登板・初先発となった9月13日の楽天戦は、3回途中までに被安打6、与四球3、4失点で降板。2度目の登板を果たした同月28日の楽天戦では、被安打2、与四死球5、4失点で、2回を投げ切ることができなかった。
誠は今季のイースタンリーグで、7試合に登板して3勝、防御率1.66と上々の成績を残している。38イニングを投げて奪った三振は35、与えた四死球は11と、内容的にも十分だ。
それでも潮崎二軍監督の目には、「ダメだろうな」と映っていた。
「野球人生の中で、ああいう大きな舞台は初めて。3万人のファンが入って投げることは、なかったと思います。緊張して自分の思い通りにならないだろうし、最初はめためたになるんじゃないかなと思っていました」
事実、初登板の前日は数時間しか眠れなかったという。2回目の登板も、マウンド上で硬い表情を見せていた。
だが、渡辺シニアディレクターが言うように、初登板の緊張、屈辱の降板は、誰もが通る道だ。
一軍のマウンドに登るプレッシャーについて、潮崎二軍監督は「ある程度場数を踏んだら、慣れてくる」という。誠がライオンズのエースになれるかどうかは、ほかの点に懸かっている。
プロで活躍する投手たちと比べても、誠が一級品の素質を持っていることは間違いない。入団したシーズンの序盤、潮崎二軍監督はこんな話をしていた。
「能力はとんでもないものを持っています。ストレートはもちろん、カットボール、フォークともに超一流になれるボールです。体ができてからが本当の勝負。楽しみは2、3年後ですね」
今年1月に喫煙と飲酒が発覚し、6カ月の対外試合出場停止処分が課された。だが結果的に、この期間が吉と出る。半年間、黙々と走り込み、投げ込みを続けたことで、ボールの力強さと変化球のキレがアップ。そうして実戦マウンドに復帰し、「バッターを、ピッチャーの意図するままに操れている」と潮崎二軍監督は感じていた。
同時に、「不遇な家庭環境がある中で、ちょっと毛羽立った人間だったのが、周囲に感謝の気持ちを持つようになったり、角が取れて丸くなった」と言う。
そうして高卒2年のシーズンに一軍デビューまでこぎつけたが、2試合続けて木っ端微塵に打ちのめされた。より正確に言えば、緊張から自滅し、持ち味を発揮できないままマウンドを降りることになった。