「ラストダンス」で最下位脱出。栗山野球の体現者が見せた、栗山監督への恩返し【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#159】
栗山英樹監督が今季限りで退任となった。最下位脱出をかけたラスト2試合、この10年間の栗山野球のまさに集大成となった。
2021/11/01
栗山野球の申し子たちが躍動
29日の第1戦は加藤貴之の好投が光った。加藤はショートスターター起用で話題になったが、今季はずっとローテの一角を任されてきた。後半戦勝てなくなったが、ローテから外されることはなかった。つい先日、プロ入り初の完封・完投試合を成し遂げたばかりだ。栗山さんが目をかけてきたサウスポー。この日は本当に気持ちのこもったピッチングを披露した。
もう1人、29日のヒーローを挙げるなら渡邉諒だ。「直球破壊王子」で売り出したが、今季は不甲斐ない成績だった。中田翔、大田泰示と並んで、主軸を期待されながら役割を果たせなかった「戦犯」の1人と言えるだろう。球団は「なべりょ刺激策」として佐藤龍世を西武から獲得する。その「なべりょ」が豪快な3号3ランをかっ飛ばす。あれが恩返しでなくて何だろう。29日は5対0で快勝。いよいよ「5位マジック1」で最終戦を迎えた。
最終戦は14時開始のデーゲーム。ハムの先発は10勝のかかった伊藤大海だ。ロッテの先発は札幌出身の本前郁也。伊藤と本前は北海道アマ球界でしのぎをけずったライバルだった。この試合は熱かったなぁ。伊藤は再三、ランナーを出しながら粘りのピッチングをする。ハムの先制は近藤健介の11号ソロだ。このホームランボールとバットは試合後、近藤から栗山監督に贈られた。
スコア1対1で迎えた7回表が含蓄があった。7番木村文紀のショートゴロを名手エチェバリアがエラーする。捕球して送球動作に入る際、こぼしてしまうのだ。ここで栗山監督は迷わず代走西川遥輝を送る。西川は盗塁王のタイトルがかかっていた。西川は見事、盗塁成功(盗塁王を4人で分け合う)。そして王柏融のタイムリーで勝ち越し成功だ。
僕が感心したのはこの場面に栗山野球のエッセンスが詰まっていることだった。左腕の本前相手にハム打線は右打者を並べた。7番木村はそういう使われ方だったし、(盗塁トップまであと1つだった)西川はその文脈で控えだった。西川が自身4度目の盗塁王タイトルをものにするストーリー。
そのストーリーの下敷に「木村文紀の出塁が西武を42年ぶりの最下位に沈めるストーリー」が敷いてある。栗山さんは(単に右打者を並べたというだけでなく)こういう「変数」を仕込んでおく。名手エチェバリアの失策まで計算したわけじゃなかろう。だけど、何かミラクルが起きないかと「ロマン枠」を仕込むのだ。こんなミラクルが起きたらどうなるだろう。野球って不思議だな、面白いなと少年のように考えている。それがハマった。たぶん栗山監督は自分がやったのではなく、野球の神様がやったと言うだろう。
9回のダメ押しは大田泰示のタイムリー2塁打だった。これがまた途中出場だったが2番に入っていた。栗山野球の成功事例のひとつ「攻撃的2番・大田泰示」の再現だ。大田は渡邉の話でも触れたが、今季の「戦犯」の1人だ。最後の最後で監督に恩返しができた。
というわけで大団円だ。栗山監督は勝って5位でユニホームを脱ぐ。伊藤大海は念願の10勝到達。西川遥輝は盗塁王。すべてがうまくいった。試合後、帽子を取ってスタンドに手を振る栗山さんに僕はじんわり泣けてきた。ただただ拍手を送る。栗山英樹監督、10年間お疲れ様でした。ありがとうございました。