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違和感を覚えた、山本昌の引退登板――ファンとの別れの形に多様性を

球界のレジェンド・山本昌の現役引退登板は、広島のクライマックスシリーズ進出を懸けた一戦だった。「引退試合」を公式戦で行う必要があるのか。MLBのような1日契約という方法もあるのではないだろうか?

2015/10/11

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新しい「引退試合」の形を考えてもいいのでは?

 今シーズンはパリーグでも引退試合が続いた。
 9月28日に西武プリンスドームで行われた埼玉西武ライオンズ対千葉ロッテマリーンズ。五回表二死無走者から菊池雄星に代わって登板した通算182勝右腕の西口文也は、ロッテの井口資仁に四球を与えてマウンドを岡本洋介に託した。

 この時点で、試合は3対2でロッテがリードしていた。カウント2‐2からボールになるきわどいスライダーを井口が2球続けて見送ったのは、両チームが激しいCS進出争いをしていたことと決して無関係ではないはずだ。

 ロッテは8日後にコボスタ宮城で行われた、東北楽天ゴールデンイーグルス戦でも引退試合の相手になった。31歳での引退を表明していた永井怜が六回表から登板すると、東洋大学の後輩である清田育宏を代打に起用。カウント1‐2から清田は空振り三振に倒れた。

 引退試合はシーズン終盤のホームゲームで行うのが慣例になっている。かつての佐々岡や今年の西口、永井らもすべて本拠地での試合に登板している。

  同じく今シーズン限りで現役を退く中日の和田一浩らの引退セレモニーも、ナゴヤドームで行われた。

 翻って、山本はビジターでの登板だった。ナゴヤドームでの今シーズン最終戦となった9月24日の阪神戦をスタンドで観戦。「若返りを推進しているチームの現状を目の当たりにして、僕が残ったらダメだと強く感じた」と引退を決意したことで、花道を飾る舞台が急きょ用意された経緯がある。

 当初は1日の広島戦に先頭打者限定で先発する予定だった。
 これが雨天中止となったことで7日にスライドとなり、広島がCS出場をかける大一番と重なった。

 おそらくは未来永劫に破られない50歳1カ月26日の最年長登板記録を達成しての現役引退に、メディアは「感動」の二文字で埋め尽くされた。
 もっとも、勝利だけを目指して、レジェンドの最終登板に花を添えるつもりがなかったからこそ、丸も空振り三振ではなく二塁ゴロに倒れたのだろう。一方で、ネット上には異論や批判も飛び交った。

 たとえば、山本昌のハッシュタグで検索するとこんなツイートを見つけることができる。

<最後の登板に感動する意味がわからない!お互いが消化試合でもないのに!相手バッターも、ストライクが入らないから無理やり打っているし!>

<引退登板という晴れ舞台が、広島の打者に対して暗に「凡退して見せ場を作らせろ」と要求することになる>

<昌の引退登板は先発ではないといけないのか。勝敗が明確になった時点からの登板ではダメだったのか>

 谷繁監督も熟慮を重ねたのか。試合途中で登板させて広島に気を使わせるのならば先頭打者限定で、たとえ走者を出しても二番手投手が抑えればいいという結論に達したことを明かしている。
 後続にはエース格をスタンバイさせ、大野雄大と若松駿太のリレーで広島打線を1安打に封じて前田健太に投げ勝った。ルーキーの若松は待望の10勝目をあげている。

 ここまで書いてきて思うのは、何も「引退試合」という概念、つまりグラウンド上でプレーすることにこだわらなくてもいのではないか、ということだ。

 メジャーには「1日契約」という文化があり、チームに貢献したレジェンドがシーズン真っ盛りのスタジアムに招待される。近年では2013年7月28日、松井秀喜氏がニューヨーク・ヤンキースと「1日限定のマイナー契約」を交わし、ヤンキースタジアムで引退セレモニーを行ってファンの喝采を浴びた。

 アメリカ球界でちょうど半世紀の歴史をもつ「1日契約」は、ヤンキースからロサンゼルス・エンゼルス、オークランド・アスレチックス、タンパベイ・レイズと移った松井氏が、プロ野球選手の生涯を愛着深いヤンキースの一員として終えたことを意味する。

 ヤンキースの粋な計らいに、松井氏はこんなコメントを残している。

「人生で忘れられない一瞬。泣きそうになった」

 たとえば今シーズンの中日は、前述したように山本をはじめとするベテランたちが大挙して現役を退いている。来シーズンのある日に「1日契約」を結んだ彼らが一堂に会すれば、レジェンドたちだけでなくファンにとっても、きっと忘れられない光景が刻まれるはずだ。

 45歳で現役を引退した斎藤隆が、楽天ではなくプロの第一歩を踏み出した横浜と「1日契約」を結ぶのもありだと思う。ファンに別れを告げるための新たな方法を考えるべき時期に差しかかっている、と教えてくれた2015年シーズンだったのではないか。私はそう考えている。

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