6月のフォーム変更が転機。自己最多13勝、CSファイナルに挑む『小さな大投手』石川雅規【新・燕軍戦記#15】
2009、2011、2012年と、これまで3度のクライマックスシリーズで、いずれも涙を呑んできた東京ヤクルトスワローズ。しかし、14年ぶりのリーグ優勝を果たした今年は、本拠地・神宮でファイナルステージを迎えることができる。その初戦の先発が有力視されているのが、今シーズンは自己最多に並ぶ13勝を挙げた石川雅規である。
2015/10/13
「最優秀防御率を獲った2008年に近い感覚」
一軍復帰登板となった7月10日の横浜DeNA戦(神宮)。5月30日以来の白星を挙げたその試合後、「結果的に5回、6回で打たれるケースが多いので、あまり悠長なことも言ってられない。まずは行けるところまでっていう意識でやってます。後ろ(リリーフ)にいいピッチャーがいるので毎試合、今日のように初回から飛ばしていきたい」と話すと、その後も長いイニングを投げたいという欲を捨て、立ち上がりから目いっぱい腕を振るようになった。
フォームの修正も相まって、一軍復帰後は12試合の登板で9勝2敗、防御率2.67。「後半戦に入ってからそうなんですけど、9月は特に状態が良くて、自分の中ではタイトル(最優秀防御率)を獲った2008年に、感覚としては近いものがあったかなと思います」と言う。
それまではファウルを打たせるつもりで投げた球が、甘いコースに入って痛打されることもしばしばだったのが、思い通りにファウルを打たせることができるようになった。ここでゴロに打ち取りたいという場面でも、イメージ通りにアウトを取ることができるようになった。
前半は1度あった完投(完封)はなくなったが、代わりに中5日、時には中4日でも先発した。チームの台所事情ゆえの苦肉の起用だったが、「基本『投げたがり』なんで、中6日より5日とかのほうが好き」という石川には、これもプラスに作用。新任の橘内基純トレーナーと共に取り組んできたトレーニングの成果で、「大事な月」と位置付けていた9月になっても、バテることなくパフォーマンスを維持することができた。
「ルーキー以来のガムシャラさでできた」というその9月は、10日のDeNA戦(神宮)から3試合連続して中5日で先発。さらに2位巨人との“決戦”となった27日の東京ドームの試合では、発熱をおして中4日で5回1失点の力投を見せ、マジック3をともした。
結局、この月は5戦全勝、防御率1.21で自身3度目の月間MVPを獲得。優勝に直結する働きで手にした賞に「チームにとって大事な時期に受賞できて、すごくうれしい。今までの受賞で一番うれしいです」と頬を緩めた。
とはいえ、リーグ優勝ですべてが終わったわけではない。日本一への道はこれから始まるのだ。
「次があるので、まだまだ『良かった』って思っちゃいけない。(優勝を実感するのは)CS、日本シリーズが終わってからじゃないですかね。(ポストシーズンは)短期決戦なんで悪ければすぐに代えられると思いますし、そういう意味では(シーズンよりも)いっそう(打者)1人ひとりっていう意識が大事かなと思います」
そのファイナルステージでは『朗報』がある。シーズン終盤には、2人の息子が登板を観に来てくれないと嘆いていたが、今回は「たぶん来ると思います。神宮球場でできるので、なんとか息子たちの前で勝ちたいです」と力を込める。
ファイナル第1戦に先発すれば、展開によっては中4日で最終第6戦に投げることも考えられるが「そこはシーズンどおり、必要とされるのであれば。中3日もやったことあるんで、全然大丈夫ッスよ。気が張っていればなんとかなるっていう気がします」と頼もしい。身長167センチと、ピッチャーでは球界でも1、2を争う小柄な体格ながら、その存在感はとてつもなく大きい──。まさに「小さな大投手」である。