選手の積極性、自発性を引き出した武井臨時コーチの起用――意識を変える新庄流キャンプ【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#166】
選手一人ひとりのやる気を高め、チームの底上げを目指す。そのための新庄ビックボスの様々な工夫が随所に施されているのが今年のファイターズ春季キャンプだ。とりわけ武井壮コーチの指導は、俊足の選手たちに大いに刺激となったようだ。
2022/02/05
産経新聞社
常に実戦と、ファンを意識
意識を変えるアプローチは他にもある。投手モニター付ピッチングマシン(「藤浪くん」という愛称がついた)もそのひとつ。あいにく雨が多くてブルーシートをかけられることが多かったが、あれも「練習のための練習」でなく、実戦をイメージする一助だろう。
それから興味深かったのはフラフープの輪を宙づりにして、送球を通させる練習。あれについては自身のツイッターで狙いを明らかにしている。「市内の量販店でフラフープを入手してきたBIGBOSSは『5人くらい、ちょっと面白い。今日、いいボールを投げられない選手でも、ああいうボールを投げたら喜んでもらえるんだという練習です』と」という記事を引用する形で端的にこう述べたのだ。
「この練習のポイントは 人を喜ばせる という意識にさせる」
これは面白いなぁと思った。想定が実戦なだけじゃなく「客前」(新庄流に言うと「ファン前」?)だ。送球ひとつを取ってもプロ意識を持てということだ。その発想は「2軍慣れ」の惰性に流された感じから最も遠いと思う。
武井臨時コーチの起用で選手に大きな刺激
ところでツイッターといえば(育成から支配下登録になった)宮田輝星の次のツイートを見てほしい。
「人生で最高の体験」
ハッシュタグは「武井壮」「春季キャンプ」「運動とは」「走り方とは」「全てが伸びしろ」の5個ついている。もちろん臨時コーチとして招かれた「百獣の王」こと武井壮氏のレクチャーを受けての感想だ。
新庄監督はこのキャンプ、野球以外の専門を持つ(?)何人かの臨時コーチを立てる予定と聞く。一部報道ではカリスマホストの「ローランド氏」の名が挙がっていたが、それは新庄監督がすぐ否定していた。トップバッターとしてやって来たのはタレントながら陸上十種競技のエキスパート、武井氏だった。この特別講義に対する選手らの食いつき方が尋常ではなかった。武井氏は語彙が豊富で、表現力がある。実地でやって見せることもできる。フツーの座学とはぜんぜん違う。
※語彙力の例。走り方を教えるとき、もちろん身体の使い方も具体的にアドバイスするのだが、言葉も刺さるものを使った。例えば「全力」でなく「全速力」。とても面白い。
武井氏との出会いは俊足がセールスポイントの選手らにいちばん響いたようだ。その代表が五十幡亮汰、宮田輝星だった。昨シーズン故障がちだった五十幡には「骨盤の傾きを少し直せば故障のリスクは減らせる」というアドバイスを与え、補習を志願した宮田には走り方の具体を伝授した。他の選手もメモを取ったり、活発に質問する等、どん欲に学んだ。これはコーチングのいちばんの要諦だ。選手が自発的に聞いてきたらコーチする。自発性がなければ何も残らない。
武井臨時コーチの起用は選手らの積極性、自発性を引っぱり出したのだと思う。これから新庄流キャンプで何が飛び出すか楽しみでしかたない。とにかくここまでは花丸、二重丸ではないか。