夢采配の難しさ――「二刀流」封印で、投手としての物語をつくった2015年の大谷翔平【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#14】
1年目から二刀流として大きな話題になったが、2015年の大谷は投手としての才能を開花させたといっていいだろう。
2015/10/17
個人のみならず、チーム内における二刀流の難しさ
「二刀流」は何故、封印されたのだろう。実際問題、野球マンガのような「登板のない日は野手で大活躍」が実現したのは1年目だけだ。2年目は「登板のない日はDHで活躍」だった。で、3年目は「登板のない日は代打で活躍」。
これは大谷だけの問題じゃないのだ。チーム内の風向きというかバランス。栗山英樹監督は「選手を信じてガマンする起用法」に定評があり、プラスに作用すれば中田翔を4番打者に育て上げたり、今年でいえばレアードを大砲として定着させたりする。マイナスに作用すれば斎藤佑樹を長期低迷させてしまう。これは栗山さんに信じてもらってる選手にとっては最高にありがたいのだ。一方、その選手と同ポジションのライバル選手にはたまったもんじゃない。
一例は今季、ヤクルトに移籍した大引啓次だろう。
昨シーズン、栗山さんは「近藤健介の打力を信じて内野手で起用」した。近藤は捕手で登録されていて、キャンプでも内野の練習をしていない。最初はサードだったが、後にショートも守った。これが職人気質の大引には納得いかなかった。
「夢は正夢」の夢采配には、どうしてもオミットされる選手が出てしまう。まぁ、僕はそれも含めて監督業だと思うからとやかく言いたくないが、大谷1年目の野手起用はチーム内にビミョーな空気をもたらしたと思う。夢(=非常識)采配の向こう側には、常識の世界で一心に頑張ってる選手がいる。
で、2年目はそこを配慮してDH起用が専らになった。3年目は近藤健介にDHの座を奪われた。近藤はリーグの打率成績3位に成長し、しかし、捕手としては送球に問題を抱えている。
だけど、僕は今季、大谷に「二刀流」ではなく、投手としての物語ができたと思うのだ。西武・中村剛也に2打席連続ホームランを食らったり、ソフトバンク打線にこてんぱんにやられたり。ファーストステージのKO劇もそのひとつだ。僕はそれがいちばん大事なところだと思う。プロとしての財産じゃないか。来季は悔しさを晴らす大谷が見たい。
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