加藤貴之の「ムエンゴ」。ノーヒットノーラン達成された悲劇をいつか笑い話に【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#175】
まもなく交流戦が終わるが、ファイターズにとってこの期間の最大の話題といえば、二夜連続サヨナラ被弾以上にDeNA今永にノーヒットノーランを達成されたことではないだろうか。しかしこの試合、ファイターズ先発の加藤貴之も素晴らしい投球を披露してくれた。
2022/06/12
産経新聞社
シンプルに投球内容で評価を
加藤はもちろんファイターズ投手陣の軸だ。上沢直之、伊藤大海と並んで「3本柱」と呼んでいいだろう。が、勝ちに恵まれない。僕は気の毒でしかたない。これ、査定はどうなるのだろう。防御率1点台で2勝というのは。以前、「加藤はひと回りはピシャリと抑える」ということでショートスターターを任されていたとき、勝ち星にこだわらない査定が約束されたと記憶するが、今シーズンも同様だろうか。評価してくれてるといい。どう見ても2勝の働きではないと思うのだ。
「ムエンゴ問題は加藤にも責任がある。もう少しマウンドで気持ちを露わにして、味方を鼓舞してはどうか。ピッチングが淡々としすぎている」、大意そのような意見を耳にすることがあるけれど、それは加藤の「責任」なのかなぁと疑問だ。淡々としているのは加藤の芸風だろう。かつてMLB時代の岩隈久志氏が「催眠術師」とニックネームをつけられたのと同じことだ。熱投タイプは確かにスタジアムを沸かせるが、加藤の「淡々」にだって含蓄がある。
それに他球団の「ムエンゴ」例を見ていくと、楽天の田中将大であったり、以前であれば巨人の菅野智之、オリックス山本由伸であったり、エース級の名前が上がる。まぁそれぞれ熱投タイプというイメージではないけれど、表情が乏しいとも言えない。イニング終わり、3アウト目を三振で取ってガッツポーズぐらいするだろう。つまり、「ムエンゴ」は当人の振舞いとはあまり関係がない。あくまで打線とのかみ合わせである。
例に上げたなかでは山本由伸がいちばん説得力がある。勝てなかったときもすごいピッチングをしてたじゃないか。強烈な印象だった。野球はすごいな、こんな本格派が出てくるんだなぁとしびれた。が、最初はさっぱり勝てなかった。仲間のハムファンも「山本由伸は大丈夫ですよ、ムエンゴだから」と半笑いだった。ずっとそうなら助かるけど、その笑いが凍りつくからね。今、NPBで最も安定して勝てるピッチャーだよ。「ムエンゴ」ってそんなもんだ。
加藤は自分のパフォーマンスを続ければいい。今季の加藤は素晴らしい。ただかみ合わせ、めぐり合わせがうまく行かないだけ。よりにもよって2022年の交流戦ではノーヒットノーランにめぐり合ってしまった。いつかそれを笑い話に変えよう。レッツゴー加藤貴之!
附記 交流戦最後の中日戦(6月12日)、ついに加藤貴之が今季3勝目を挙げた。7回無失点、中4日の力投だった。これで加藤は交流戦成績、防御率0.00、26イニング無失点を達成。