星秀和(元埼玉西武ライオンズ)――いざ、トライアウトへ。燃え尽きるまで野球を続けたい!【中島大輔 One~この1人をクローズアップ】
ある試合の象徴的なワンシーンを切り抜き、その場面の選手の心理や想いを取り上げる連載企画。10月以降はシーズンオフということもあり、試合のワンシーンではなく1人の選手をクローズアップしていく。今週と来週は特別編をお送りする。筆者は10月に独立リーグ日本一を懸けた群馬ダイヤモンドペガサス対徳島インディゴソックスの試合を取材。そこで懐かしい一人の元プロ野球選手に再会した。
2014/10/28
Daisuke Nakajima
星に手を差し伸べたライオンズの先輩
仕事に誘ってくれる知人もいて、引退後の生活は何とかなると考えていた。一方、寂しそうな表情を浮かべる友人がいた。プロに入る前、一緒に白球を追いかけた仲間たちだ。
「彼らの野球人生の続きを、僕が代わりにやっているように感じていたみたいですね。そういうヤツがクビになっちゃったら、周りはけっこう寂しいみたいで。本人は『そうっすか』、みたいな(笑)」
星は10月から12月中旬まで、荒れた生活を一日中送った。ひたすら遊び倒すことに決めたのは、明確な理由がある。
「あえて何も考えないようにして、2カ月半経ったときに、パッと思い浮かんだことをやろうかな、みたいな」
星がパチンコ台に向かった時間は、ある意味、修行僧にとっての座禅のようなものだ。
一定の時間、頭を無にして、目を見開いたときに自分と向かい合う。戦力外通告を受けた瞬間は「野球をやめようと思った」が、2カ月半後、その気持ちは変わっていた。より正確に言えば、冷却期間を置いたことで、自分に正直になることができた。
「いままでは野球しかやってきていないわけですよ。で、その野球が急になくなる。野球がなくなるのが怖くて続けるなら、意味がないわけです。そうだとしたら、やめようと思っていた。それって、野球をやりたくて続けるのとは、意味が違うわけじゃないですか。で、そのとき、野球をやりたいと思ったんです」
自分の決意は固まった。だが、現実的な問題がある。ヒジのギブスは取れたばかりで、復帰のメドはまるで立っていない。そんな星を獲得してくれるチームが、どこにあるのだろうか。
さまざまな人に意見を聞くなかで、とりわけ影響を受けたのが、西武の二軍で外野守備走塁コーチをしていた宮地克彦だ(現在は一軍打撃コーチ)。
06年限りでソフトバンクを戦力外となった宮地は翌年、BCリーグの富山サンダーバーズで選手兼コーチとして1年をすごした。
星が生まれ育った前橋にも、独立リーグの球団がある。13年12月中旬、群馬ダイヤモンドペガサスの代表取締役会長を務める糸井丈之に連絡をとり、ひとりで会いに行った。
「ヒジのギブスが取れたばかりで、いつから合流できるかもわかりません。それまでの給料はいらないので、合流してから給料をいただければいいです。そんな条件でも行けますか?」
星がそう聞くと、糸井は「行ける」と返した。両者は条件面で合意に至り、星がリハビリを終えてチームに合流できるようになった頃、連絡する段取りになった。
そうして14年も、野球を続けるメドが立った。しかし、現実的な問題がまだある。どうやってリハビリを行うのか、だ。さらに、生活していく実入りも必要になる。
「お前、バイトするのか?」
そう聞いてきたのが、西武時代に世話になった先輩の栗山巧だ。同じ左打ちの外野手でもある栗山は、星の進路をずっと気にかけてくれていた。「群馬で野球をすることに決めました」。そう電話で伝えると、「バイトしようと思っている」という後輩の意思を確認した栗山は、提案を持ちかけた。
「じゃあ、俺の運転手をやれ」
プロ野球選手として復活を期す星にとって、これほどありがたいオファーはなかった。
この続きは来週11月4日に更新いたします。