松本剛、全力疾走は難しくても十分な戦力。「ツーランスクイズ策」に見る起用の狙い【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#180】
骨折明けで1軍へ復帰した松本剛。完治したとはいえない状況下での先発起用も、個人タイトル獲得のための温情采配では決してない。
2022/08/21
半分だけ成功した奇襲
楽天19回戦(札幌ドーム、8月18日)、7回裏の攻撃が面白かった。1死2、3塁でバッターは「2番松本剛」。松本はバットコントロールが巧みだから外野フライでもゴロゴーでも得点が狙える。スコアは0対1、次は近藤健介だ。僕のイメージは「センター返しのゴロのヒット」、スコアを1対1にして、なおも1死1、3塁でコンスケだ。あわよくばビッグイニングを狙おうという考え。
が、新庄ビッグボスの狙いはぜんぜん違った。
松本剛スクイズだ。マジかと思った。松本は小技も得意だ。難なくバントを転がす。ピッチャー、ブセニッツは本塁をあきらめ1塁へ送球。走者・中島卓也が返ってスコアは1対1。見事スクイズを決めた松本は拍手でベンチに迎えられる。
と、新庄ビッグボスが全身でガクッと来ている。ぐわあ、ちっきしょーという感じ。スクイズ策はまんまと的中なのになぜ?、と思ったら、GAORA解説の鶴岡慎也さんが「これはたぶんツーランスクイズ狙ってましたね。ここで逆転するつもりだったのに、セカンドランナーのアルカンタラが3塁で足を緩めちゃったんだと思います」と解説を入れた。あぁ、なるほどピッチャーは外国人のブセニッツだ。そういう細かい野球への警戒がないかもしれない。フツーにゆっくり1塁送球している間に、セカンドランナーも本塁突入させるつもりだった、1塁鈴木大地があわてて送球を逸らしてくれたらラッキー(!)、という奇襲。
試合後、囲み取材でそこを尋ねられたビッグボスはツーランスクイズの意図を認めている。どうやらアルカンタラのサイン見逃しらしい。つまり、7回のスクイズは奇襲の半分しか成功しなかったわけだ。囲み取材でボスは「弱者の兵法」を語った。「なかなか勝てる相手ではないし、外国人投手じゃなかったらツーランスクイズじゃなく、スクイズにしていた。弱いチームが強いチームに勝つためには、ああいう作戦を取って勝っていかないと」
で、この奇襲シーンで僕が注目したいのは、骨折明けの松本剛なのだ。戦列復帰したばかり。まだ完全には骨はつながっていないと思われる。鎌ケ谷で特別代走(?)を使ってたと思ったら、あっという間に1軍へ上げた。ファイターズは松本の首位打者獲得を球団をあげてバックアップする構えだ。そのためには打席数が要る。今はひとつでも多く打席に立たせたい。
ビッグボスは当初「ランナーがいれば全部バント」という言い方をしていた。復帰していきなりマルチ安打を放つなど、余計な気づかい無用とも思えるけれど、やっぱりトップフォームとは行かないのだ。ちょっとした感覚の狂いがある。まぁ、「ランナーがいれば全部バント」は極端としても、それも有りという意味での「2番松本剛」じゃないだろうか。犠打は打数としてカウントされるものの、アウトになっても打率が下がらない。
という文脈を踏まえての「ツーランスクイズ策」だったかと思う。僕はヒットを期待したけれど、新庄ビッグボスは「逆転犠打」を考えていた。(まだ全開じゃない)松本剛の使い方だ。これは面白い。なかなか含蓄があると思う。