根本悠楓に求められる粘り――「あと一歩」の積み重ねを成長の糧に【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#181】
ペナントレースは大詰めを迎えているが、ファイターズだけ取り残された展開に。しかし若手選手にとっては大きなチャンス。根本悠楓も来季以降の活躍が期待される左腕だ。
2022/09/03
産経新聞社
必ず2ケタは勝てる投手
先手を取ったのはファイターズだ。いきなり木村文紀が2ベースで出塁、清宮三振の後、近藤健介が歩き、1死1、2塁だ。打席にスキップして向かう(のがルーティン)のは4番、松本剛。戦列復帰後もしぶといバッティングは健在だ。レフト線に2塁打を放った。もちろん二者生還でスコアボードに「2」が入る。隅田知一郎はこの先制パンチが効いたのか、その後も投球が慎重になって、やたらと球数が多かった。ランナーを抱えて、更に慎重になる。長く持って投球テンポも悪い。時折、あり得ないくらい素晴らしい球を投げるのにもったいなかった。とにかくあんなに球数を要していては長いイニングが投げられない。
対して根本悠楓は度胸が良かった。Sプロデューサーが「根本っていうのはコントロールがいいね」と褒めてくれる。「白老の出身なんですよ。苫小牧中央高校。中学生の頃から全国に名をはせていた子でね、僕なんか新庄ビッグボスが開幕投手に抜擢するんじゃないかと…」、ついつい話が長くなって嫌な顔をされた。確かに根本はコントロールがいい。コントロールがいい投手は踏み込まれて狙い打ちされるケースがあるけれど、根本は右打者の内懐をズバッと突くストレートを持っている。この内懐のストレートは生命線だ。このキレ、コントロールが投球の基準になる。これがあれば右打者は踏み込めない。山川穂高、中村剛也ら強打者とのかけひきをネット裏から楽しんだ。
根本は1軍でそこそこやれるのはもうわかっている。持ち球は通用する。次は「つかまりだしたときにどう粘れるか」だなぁと思っていたのだ。先発で回っていくには同じ打者を三度打席に迎える計算になる。目先を変えるような投球の幅が必要になる。それから全部、自分の術中におさまるような快刀乱麻は望めない。ランナーを出して苦しい投球をする場面が必ずある。「トントン拍子にいかないとき」をどう抑えるか。ここに先発投手の要諦がある。勝てる投手はここぞの場面で三振を奪ったり、ゲッツーで切り抜けたりできるのだ。
この日の根本はかなり良かった。5回2死から森友哉のタイムリー2塁打で同点にされ、あと一歩のところで勝ち投手の権利をフイにしたけれど、野手のエラーもからんでいて不憫だった。が、とても貴重な経験だったに違いない。こういう「あと一歩」の経験を重ねて、主戦級の好投手は出来上がる。この試合は4打数2安打3打点の松本剛がヒーローであり、激走の清宮幸太郎、好リリーフの吉田輝星(ストレートの質に惚れ惚れした)、守護神復活の石川直也etc、と活躍した選手が目白押しなのだが、僕は(勝ちのつかなかった)根本を取り上げたいと思った。ナイスピッチングだ。必ず2ケタ勝てる投手になるだろう。
で、もちろん文化放送のSプロデューサーにはお礼を申し上げ、「いやぁ、最下位なのにすいません」と言い添えた。翌日の県営大宮は雨天中止になったが、9月頭のソフトバンク3連戦を前に(月刊MVPに輝いた水上由伸に負けがつくなど)リリーフ陣に疲れが見えるのは悩ましいところだろう。まぁ、でも「圏外」の僕らからしたらうらやましい悩みでもある。僕は健闘を祈っていますよ。