【ドラ1の知られざる苦悩】元巨人・辻内崇伸(3)「ジャイアンツに行きたいというよりも…」
2022/10/13
産経新聞社
まさかの勘違い
場内にアナウンスが流れた。
ドラフト会議が始まる前、辻内には何種類かの原稿が渡されていたという。その中にはオリックスが交渉権を獲得したときのものもあった。
「イチローさんもいた素晴らしい球団とか、そのようなことが書かれていました。ぼくが考えた文章じゃないです。誰かが用意してくれていたんだと思います」
しかし、これは間違いだった。
抽選用紙には朱色のコミッショナー印が押してあり、当たりくじには左側に「交渉権獲得」と書かれていた。抽選が3年ぶりだということもあっただろう、バファローズの中村は、コミッショナー印を、当たりくじだと勘違いしたのだ。
大阪桐蔭の部屋では辻内の写真撮影が始まっていた。そんなとき、モニター画面に「辻内巨人」の文字が流れた。辻内は、一瞬、何が起こったのか分からないような顔になった。そしてジャイアンツが交渉権を獲得したことが分かると、表情がぱっと明るくなった。
「ジャイアンツ(が交渉権を獲得したとき用)のカンペもあったんです。でも、全部ぶっ飛びました。もう笑っていましたね」
満面の笑みで辻内はこう言っている。
――小さなころから巨人ファンなのでうれしい。
このとき、辻内は、読売ジャイアンツからドラフト1位に指名されることの大変さをまだ理解していなかった。
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