【ドラ1の知られざる苦悩】巨人・元木大介(2)逆指名批判、ホークス入団拒否の理由
2022/10/14
産経新聞社
12球団全てのスカウトが会いに来た
1989年秋――。
ドラフト会議が近づき、新聞などで元木の名前は〈ドラフト1位候補〉として取り上げられるようになった。
しかし、元木は他人事のように感じていた。兄が「お前がドラフト1位ってどうなんや」と茶化すと、元木は「俺もわかんねぇ」ととぼけた。本当に自分がプロ野球選手になれるのか、半信半疑だったのだ。
「プロに行けると思っていなかったのは本音。プロってすげぇ世界だって思っているから。あのマスコットバットでバンバン、フェンス越えしている人の記憶があった。見る目ないな、自分よりももっとすごい奴いっぱいいるのにって」
もちろん高校卒業後も野球を辞める気はなかった。社会人、もしくは大学に進学する心づもりだった。
「大学も(野球推薦で)どっかいいところ行けたらいいなとか、思っていた」
そんな元木が自分の進路としっかり向き合ったのは、野球部に退部届を出し、プロ野球に進む意思をはっきりとさせてからのことだ。
「退部届出せって言われて、俺、もう退部するの? 野球部じゃなくなるの? 俺だけ辞めるのって感覚」
元木によると12球団全てのスカウトが会いに来たという。
「授業中に、おいって呼ばれて、理事長室に入ったら、スカウトの人がいた。もしよければ、みたいな感じで1位指名させて頂きたいんですけれどって言われた。終わってから教室で、おーいってみんなを集めて名刺を見せるのも楽しかった。みんなが、どこ(の球団)、どこって(訊ねてくるので)、これ見てみって。もちろん、全部の球団が1位ではなかったですけれど。正直、(各球団の)熱意みたいなものは分かった。
近鉄(バファローズ)は早かったですけれど、とりあえず挨拶に来た、あれ、もう帰るの、みたいな感じ。ジャイアンツも早くから来てくれた。ジャイアンツの人とは長く喋って、なんとか欲しいんで1位指名しますって言われた。こっちは、めっちゃ嬉しいわと思いながら、ありがとうございますって」