【ドラ1の知られざる苦悩】巨人・元木大介(2)逆指名批判、ホークス入団拒否の理由
2022/10/14
産経新聞社
「あれ、俺、ジャイアンツ入れないわ」
記者会見から約2ヶ月後の11月26日、プロ野球新人選手選択会議が赤坂プリンスホテルで開かれた。
この日、上宮には記者会見場が急遽設けられた。部屋には報道陣が土足で上がれるように青色のグラウンドシートが敷かれて、パイプ椅子が並べられていた。16時のドラフト会議開始に合わせて、学生服を着た元木は部屋に入った。彼の前には長机が置かれ、無数のマイクが乗っていた。軽く3、40人を越える報道陣が集まっていただろう。長机の横にテレビモニターが設置されており、ドラフト会議の模様が中継されていた。
この年のドラフトでは新日鐵堺の右腕投手、野茂英雄を何球団が指名するのか、が注目されていた。ジャイアンツは野茂の指名には加わらず、元木、もしくは慶應大学の大森剛を選ぶと予想されていた。大森は「1位以外ならば行かない」と発言していた。ジャイアンツは元木、大森のどちらを取るか、だった。
ジャイアンツの選択指名選手の発表は12球団の最後だった。
――第1回選択希望選手、読売、大森剛、22歳、内野手、慶應大学。
パシフィック・リーグ広報部長の伊東一雄の声が響いた。
その瞬間、元木は下を向き、口を少し尖らせた。その瞬間、一斉にシャッター音が鳴った。そして元木は所在ない表情でうつむいた。
「残念っていうんですか……はい」
誰に向かって言ったでもない言葉だった。
報道陣から質問が飛んだ。
――夕べ、寝るときから(ジャイアンツから1位指名されることを)信じてましたか?
「信じてました」
頷いて、そういうのが精一杯だった。元木は必死で涙をこらえていたのだ。
その後、8球団が競合した野茂英雄の指名を外したホークスが元木を指名した。
当時をこう振り返る。
「大森って名前が呼ばれた瞬間に、あっ、大森さんだって。ふーんって考えた後、あれ、俺、ジャイアンツ入れないわ、あれ(1位指名しますという約束)はなんだったんだろうと思って。そっから後はもう何がなんだか、さっぱり分かんないですよ」
ドラフト会議が終わった後、元木は報道陣から離れて監督室で泣いた。監督の山上からドラフト会議前、監督のところにジャイアンツから「1位は大森で行きます」という連絡が入っていたと聞かされた。逆指名と批判されたことも思い出し、しばらく涙が止まらなかった。