【ドラ1の知られざる苦悩】巨人・元木大介(3)一軍に生き残るための「スタイル変換」
2022/10/14
産経新聞社
ハワイでの厳しい生活
福岡ダイエーホークスの1位指名を断った元木大介は、翌年のドラフト会議まで日本を離れることにした。
元木の家の周りには報道陣が詰めかけ、身動きが取れなくなっていたのだ。
「家族に迷惑掛けちゃいけないって思ったんですよ。自分が動くと、何かしら週刊誌や新聞が追ってくる。良いことを一切書いてくれない。今も不思議でしょうがないんだけれど、(関係者から)ハワイ行くかって言われたとき、普通は、行ったこともないんだから、“どこ”って聞き返すよね。でも俺、二つ返事だった」
そして、元木はワイキキから車で約1時間ほどの場所にあるカイルアという街でホームステイすることになった。教師である家主は元木のために庭に6畳ほどのプレハブ小屋を建てていた。しかし、1ヶ月約5万円の滞在費には食費は含まれていなかったという。
「昼間は弁当屋さんがあってそこで買っていた。白いプラスティックで蓋がついているような弁当。ロコモコって言うのかな。骨付きカルビみたいな薄っぺらい肉が入っている。英語は分からないから、ディスワン、ディスワンって指で指して。それを部屋で食べるのが幸せだった」
問題は夜だった。
「(家主は)学校の先生だから子どものパーティとかで家に誰もいないことも多かった。辺りは街灯も何にもない。(治安が悪くて)怖いイメージがあったから、夜は歩けない。何か食べようと思って、冷蔵庫を開けても何が書いてあるのか分からない。昼間にカップヌードルを買いだめしておいて、それを食べてた」
カップヌードルは冷蔵庫の上に置いていた。
「赤い蟻が冷蔵庫の上まで登って行って、カップヌードルの(包装の)ビニールを破って中に入っていくの。その赤い蟻っていうのはすごくて、(床で)ストレッチとかしていると、イテって。そうしたらプクって腫れてくる。もう怖くてね」
3ヶ月に一度、ビザの書き換えのために日本に戻らなくてはならなかった。元木は日本に戻るとまっ先に薬局へ走り、蟻を退治する薬品を手に入れた。
「それを置いておくと蟻が来なくなった。効いた、効いたって。赤蟻を退治したぜって思った。なんでこんなんやっているんだろうって。泣いたことが沢山あった」