【ドラ1の知られざる苦悩】日本ハム多田野数人(3)前評判とは“別人”となった事情
2022/10/17
産経新聞社
骨折が投球スタイルに大きく影響
原因はシーズン前の怪我だった。1月6日、自主トレーニング中に左手首を骨折していた。
「ランニングをしていて、駐車場のところにあったチェーンに脚が引っかかってしまって転んだんです。そのときに左手をついてしまい骨折。破片状になった骨を手術でくっつけたんです」
リハビリを経て2月末に二軍に合流、4月25日に二軍戦に登板している。一軍の投手が不足し、急遽一軍登録、初登板となったのだ。
「ピッチャーって利き腕はもちろんですが、反対の手もすごく大事なんです。投げるときにグラブを(脇に)ぎゅっと巻きこむ。それが全然できない」
手術後、左手首は自由に動かなくなっていた。今も買い物をして釣りを貰うとき左の掌で受け取ると、小銭が下にばらばらと音を立てて落ちる程だという。
「手首をうまく使えないから、ふわっとした感じで(グラブを)巻きこむしかない。そうなると球速が落ちる。だいたい10キロぐらいは遅くなりました」
球威を売りにする投手が、コースを投げ分けて交わす、いわゆる軟投派への転向は難しいとされている。年齢を積み重ねるうちに、投球スタイルを変えていく場合もあるが、多田野の場合は突然、球速減を受け入れざるを得なくなったのだ。そして、ドラフト1位投手という視線の重みもあったろう。
ただ、多田野は周囲の目は気にならなかったと言う。
「直接、ぼくの耳には入ってこなかったです。目の前の打者をどう抑えるか。150キロを投げて打たれるよりも、140キロで抑えるほうが全然いいですしね」
1年目の多田野は7勝7敗という成績を残した。ただし、これが彼の最高の成績となった。