【ドラ1の知られざる苦悩】日本ハム多田野数人(3)前評判とは“別人”となった事情
2022/10/17
産経新聞社
指導者としての喜び
石川ミリオンスターズで多田野が意識したのはアメリカでの経験だ。
「上から押しつけるようなことは絶対にしたくない。選手たちには野球を楽しく、なおかつ上(プロ野球)でやってもらいたい。例えば、フォームについては一切言わない。いいときは何も言わなくていいんです。じっと見ているだけ。調子が悪くなってきたときには、“いいときはこうだったよ”とその差を指摘する」
そしてもう一つは、気持ちの切り替えだと多田野は言う。
「これもアメリカでの経験なんですが、打たれたときに投手を責めない。だいたい打たれると頭が混乱している。だから、シンプルに“ピッチャーはバッターをアウトにするのが仕事だぞ”という言葉を掛ける。球を速くするとか、変化球をより曲げるとかじゃない。細かいことを気にせず、アウトを取ればいい」
石川のコーチになってから、ドラフト会議が近づくと多田野は落ち着かなくなったという。
「BCリーグって石川の他に9チームあるんです。うちの選手が指名されなくて、他のチームから指名されると一番悔しい。うちの選手が指名されたときは、ぐっと来ましたね」
自分がドラフト1位指名されたときよりもうれしいですか、と訊ねると、多田野は目を丸くした。
「自分が1位指名されたときは涙なんか出ませんでしたよ」
そして「比べものにならないです」と笑った。多田野は様々な経験を経て、指導者の道をしっかりとした足取りで歩いている。そう感じさせる、笑顔だった。
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【収録選手】
CASE1 辻内崇伸(05年高校生ドラフト1巡目 読売ジャイアンツ)
CASE2 多田野数人(07年大学生・社会人ドラフト1巡目 北海道日本ハムファイターズ)
CASE3 的場寛一(99年ドラフト1位 阪神タイガース)
CASE4 古木克明 (98年ドラフト1位 横浜ベイスターズ)
CASE5 大越基(92年ドラフト1位 福岡ダイエーホークス)
CASE6 元木大介(90年ドラフト1位 読売ジャイアンツ)
CASE7 前田幸長(88年ドラフト1位 ロッテオリオンズ)
CASE8 荒木大輔 (82年ドラフト1位 ヤクルトスワローズ)