【ドラ1の知られざる苦悩】元ダイエー大越基(1)仙台育英との運命的な出会い
2022/10/17
産経新聞社
「これは凄い。自分が求めていたものだ、と」
仙台育英高校は仙台駅の近く、宮城球場の隣にあった。七ヶ浜に住んでいた頃、宮城球場に野球を観に行ったことがあった。高校を取り囲む塀に、成人向けの漫画誌が捨てられており、すさんだ雰囲気だと子ども心ながら感じていたのだ。
新幹線の時間までまだあるから行こう、大越は父親に引っ張られる形で仙台育英の練習場に足を踏み入れた――。
(何? この空間は?)
思わず大越は心の中で叫んでいた。
「秋季大会で負けているのに、気合いが入った練習をしているんです。熱気があって、そこに吸い込まれてしまった。これは凄い。自分が求めていたものだ、と」
気がつくと大越はバックネット裏で金網にしがみついて練習を見ていた。そして、眼に入った投球練習場に引きつけられるように歩いていた。
そんな大越に男が声を掛けた。
「君、どこから来たんだ」
「青森県の八戸です」
大越が答えると矢継ぎ早に質問された。
「ポジションは?」
「ピッチャーです」
「ちょっと投げてみるか?」
仙台育英高校野球部の監督、竹田利秋だった。