【ドラ1の知られざる苦悩】元ダイエー大越基(2)“甲子園のアイドル”元木を「ぶった切る」
2022/10/17
産経新聞社
「あー良かった、と」
大越は右腕を思いきり振って、勢いのいいストレートを投げ込み、上宮の打者をねじ伏せていく。元木には4打数1安打という成績だった。
「でも種田には5打数2安打。選抜から通算で10(打数)の5(安打)で打たれてます。嫌らしいバッターでしたね。投げるボール、投げるボール、バットに当ててくる。こいつ、いいセンスしているなぁ、と。元木、元木って言われているけど、センスは種田のほうがあるんじゃないかと思ってました」
試合は10対2で仙台育英が勝利した。その夜、大越は宿舎のトイレに入り、一人で勝利を噛みしめていたという。
「五人部屋だったから、みんなといると余韻に浸れないじゃないですか? 便器に腰掛けて、あー良かった、と」
仙台育英は尽誠学園戦でも勝利、初めて決勝に進出する。決勝では延長戦の末、帝京高校に敗れ、準優勝となった。
小学生の頃、大越は甲子園の特集号が出ると、貯めていた小遣いを使って買っていた。そして、その一字一句を記憶するほど眺めていた。自分もここに載るような選手になりたい。彼はその夢を叶えたのだ。
このときは、その反動で自分の心が空っぽになり、人生を大きく変えてしまうことなど、想像もしていなかった。
(3)につづく
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CASE2 多田野数人(07年大学生・社会人ドラフト1巡目 北海道日本ハムファイターズ)
CASE3 的場寛一(99年ドラフト1位 阪神タイガース)
CASE4 古木克明 (98年ドラフト1位 横浜ベイスターズ)
CASE5 大越基(92年ドラフト1位 福岡ダイエーホークス)
CASE6 元木大介(90年ドラフト1位 読売ジャイアンツ)
CASE7 前田幸長(88年ドラフト1位 ロッテオリオンズ)
CASE8 荒木大輔 (82年ドラフト1位 ヤクルトスワローズ)