苦労人、即戦力、隠し玉…今秋ドラフトで指名された名門・東北福祉大の3人
2022/10/22
川浪康太郎
杉澤龍(オリックス4位)
打席でバットを高く掲げる杉澤龍。【撮影:川浪康太郎】
甲斐生海外野手(4年=九州国際大付)の囲み取材中、オリックスから4位指名を受けた杉澤龍外野手(4年=東北)が安堵の表情を浮かべながら会見場に現れた。「ナイス!」。戦友である甲斐からそう言葉を掛けられると、白い歯がこぼれた。
取材のたびに、「打つだけでなく、走っても守っても貢献できる選手になりたい」と強調してきた杉澤。その言葉に恥じない総合力の高さが評価された瞬間だった。
秋田県小坂町出身で、高校時代は宮城の強豪・東北でプレー。1年次から正遊撃手の座を奪い、当時楽天の監督だった梨田昌孝氏が目をつけるほどの野球センスを発揮していた。プロへの意識が強まったのは、1年次に出場した夏の甲子園。初戦で横浜のエース・藤平尚真投手(現・楽天)に3打数無安打2三振と抑え込まれ、チームは敗退した。「このレベルのボールを打てるようにならないとプロにはなれない。あの時見たボールを思い浮かべながら練習してきた」。悔しい経験が夢を追い続ける原動力になった。
大学では出場機会を求め外野手に転向。スタメンに定着した3年次は春秋ともにベストナインに選出され、一躍ドラフト候補に浮上した。この年の12月には大学日本代表候補強化合宿に参加。矢澤宏太投手(日本体育大、日本ハム1位)、蛭間拓哉外野手(早稲田大、西武1位)ら同じ左打者の打撃を観察する中で、「左手の使い方」の重要性に気づいた。
その後、グリップが先に出てバットの先が後から出る「インサイドアウト」を取り入れ、左手で押し込む意識でスイングすることでミート力、長打力がともに向上。その際動画を見て参考にしたのが、同じ左打ち外野手で体格も似ているオリックス・吉田正尚外野手の打撃だった。「(打ち方を)変えたら調子が悪くならないかな」との不安をよそに、4年春は打率.550、4本塁打、14打点と圧巻の成績で仙台六大学史上5人目の三冠王に輝く。秋は打率こそ.242と伸び悩んだが、3本塁打を放ち、四球による出塁を増やすなど最後までアピールを続けた。
元高校球児の父・孝児さんとは、大学生になった今でも教えを乞う関係。バットを高く掲げる独特なルーティンも、孝児さんの助言から生まれた。「これからはアドバイスをされなくても成長できる場所に行く。野球の技術以外のことで困った時にまた、アドバイスをもらいたい」。プロ野球選手として活躍することが、最大の親孝行となる。