淺間大基の離脱で江越に懸かる期待。誰かの代わりに誰かが出てくる“プロの厳しさ”【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#194】
外野のレギュラーを狙っていた淺間大基がオープン戦で負傷し、開幕絶望となった。淺間が抜けた現在、シーズンオフにトレードで移籍してきた江越大賀にとってレギュラー定着のチャンスだ。
2023/03/04
産経新聞社
チームメイトは敵にあらず
僕は淺間が可哀想だと言いたいわけじゃない。彼の胸中は想像しただけでつらいけど、それを可哀想なんて言ったら失礼な気がする。僕はただプロの厳しさを思う。誰かの代わりに誰かが出てくる。みんながチャンスを狙ってる世界。
江越とともに阪神から移籍してきた齋藤友貴哉にも同じことが言える。齋藤の場合はキャンプ初日の紅白戦だった。1球投げただけで膝の違和感を訴え、降板してしまった。見ている当方としては、サクッと交代して無理させなかったから(たぶん肉離れだろうけど)軽症で済んだかなとタカをくくっていた。何と「右膝前十字じん帯断裂」なのだった。本人は球団と話し合い、手術に踏み切った。全治8か月というから今季の戦列復帰は絶望だろうか。石川直也との「山形中央高リレー」を楽しみにしていたのに。
「キャンプ打ち上げ前日のオープン戦で負傷」もせつないが、「キャンプ初日の負傷」もきつい。張り切っていた本人がいちばんガクッと来ただろう。野球選手にケガはつきものだけど、「背番号一新で張り切る」や「新天地で頑張る」の、その気持ちの張りは一体、どこへ向ければいいのか。
手術後、経過を見ながらリハビリが始まる。キャンプ中、張りつめていたものをいったん静めて、地道な反復トレーニングに明け暮れる日々だ。淺間も齋藤友貴哉も一人じゃ苦しい。手紙でもいいからファンの激励をお願いしたいと思う。
死球を受けて「病院に行きたくない」と言った江越大賀には話のつづきがある。翌2日の紅白戦で満塁ホームランを放つのだ。まだ「痛みはある」というが、「今日を見て、大丈夫と思っていただければ」「試合は気合です」とコメントしている。
その満塁弾を放ったバットは何と新庄監督にプレゼントされたものだそうだ。マネージャーを通じて練習前に手渡された。使ってみると「グリップエンドの大きさがあって、操作性が上がる」と直感、「すぐにミズノさんに同じものを作ってください」と注文したそうだ。もう、感じ入るしかない。野球ドラマそのものじゃないか。
このドラマはファンなら記憶にとどめるべきだと思う。チームメイトはポジション争いのライバルではあっても「敵」ではない。
まず、僕らは江越が開幕へ向けて一心に頑張る姿を見る。開幕スタメンに名を連ねるかどうか、パリーグで活躍できるかどうか見る。その先にはケガ明けで戻って来る淺間とどう絡むか、どんな声がけをして、2人でどんな活躍するか見る。で、もしかしたら来季になるかもしれないが、同じ阪神移籍組として齋藤友貴哉の復活劇にどう花を添えるのか見る。
今は明暗分かれて見えるけれど、ストーリーはそうやって続いていく。僕は頑張れ江越! 頑張れ淺間! 頑張れ齋藤友貴哉! と全員にエールだ。プロの世界できつくない者なんていない。仲間がいるから、そしてファンの応援があるから屈しないでいられる。