若いチームを支える宮西、谷内の働き。経験から培われた職人の「何とかする力」【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#200】
開幕して2カ月。試行錯誤しながらも着実に勝つための形が見えてきたファイターズ。中でも2人のベテランの働きが見逃せない。
2023/05/27
産経新聞社
抑えようと必死に腕を振る宮西から伝わる勇気
ファイターズがだいぶ調子を上げてきた。解説者、評論家のほとんどが最下位予想したチームにAクラスが見えつつある。まだまだゲーム差はあるが、選手を何人もケガで欠くチーム事情を考えればよくやってる方だと思う。依然として凡ミスや、プロにあるまじきエラーも目につくけれど、まぁ若いチームだからある程度は仕方ない。
チームの復調に大きな役割を果たしているのが宮西尚生、谷内亮太のベテランの力ではないか。ファイターズは2016年日本一以降、主力を次々に「卒業」させ、チームの新陳代謝をはかってきた。まぁ、人件費コストを抑える狙いもあったろうし、中田翔のケースのように親会社(食品会社)のブランドイメージを守る意味合いもあったろう。気がつくとNPBの年俸総額ランキング12位に推定されるチームになっている。本当に若くてこれからという選手ばかりなのだ。
が、チームを安定して勝たせるためには、若さや勢いだけでは足りない。ベテランの力が必要になる。ベテランの力というのは何かと言ったら「何とかする力」だ。経験があるから引き出しが多い。野球を知ってるから状況判断ができる。困ったとき、ここが勝負どころというとき、宮西や谷内が何とかしてくれる。その安心感。その頼りがい。
宮西尚生の復活は今季、ファイターズの見逃せないドラマだ。僕も(たぶん読者も)宮西復活を待ちわびていたが、インタビュー記事を読むと本人はあきらめかけた瞬間があったようだ。昨シーズンは宮西がかつてのような球威を失い、相手打線につかまって、むなしくマウンドを降りる姿を見るのが本当につらかった。だけど、宮西の引退なんて考えられない。エスコンのマウンドに彼が立たないなんてことがあり得るだろうか。僕はどんな形でも宮西が新球場に立ったらスタンディングオベーションで迎えようと決めていた。
そのココロは「どんな形であれ、宮西尚生が新球場に立つことはファンの夢だ」である。宮西がつくってきた歴史、ファンがそこに重ねた想い、それがファイターズなのだ。球場が変わってもそれがファイターズだ。もし、彼の身体がボロボロで、開幕シリーズの相手・楽天にメッタ打ちを食らってもファンならそんなことは引き受けられる。最初から最後まで宮西を応援するだけ。いいときだけのファンじゃないつもりだ。仮に(あくまで仮にだ!)宮西が散るならそれを受け止めよう。
と思っていたら、ぜんぜんフツーにカムバックするんだもんな。もう、感動だよ。当たり前にホールドを稼いで、試合を締めてくれている。田中正義と2人、投手陣再建のキーマンといえるだろう。
今の宮西がグッとくるのはその勇気がダイレクトに伝わってくるところだ。もちろん全盛期の「打者を寄せ付けないピッチング」の頃だって、勇気をふりしぼって投げていたのだと思う。ただそれはファンには見えなかった。好不調の波こそあれ、基本的にビシッと抑えてくれたのだ。僕らはもう宮西の姿を見ただけで安心していられた。今はあの頃よりは不安を抱えていると思う。ランナーも出すし、ぎりぎりの攻防で無失点で切り抜けるケースも多い。でも、その分、宮西の勇気が伝わってくるのだ。以前より球威が落ちた分、「この一球」の入魂度合いはすごいものがある。