今自分ができることに集中する。中日・小笠原慎之介の表情から伝わる「エース」の自覚【工藤公康の眼】
今年3月に『プロフェッショナル投手育成メソッド 一流選手へ導く“投球メカニズムとトレーニング”』を出版した工藤公康氏。交流戦が終わり熱い夏を迎える中、編集部が気になる選手や話題について、工藤氏に現場で選手やコーチに伝えてきた指導メソッドの視点も織り交ぜながら語ってもらった。
2023/07/03
産経新聞社
ナックルカーブは目線を惑わす役割を持つ
セ・リーグで、戸郷翔征投手(巨人)とともに、精神的な充実度を感じるのが小笠原慎之介投手(中日)です。巨人との開幕戦で8回まで145球の粘投を見せたときから、今年にかける強い想いを感じました。
自分のボールに対する自信がついたのか、あるいは、「今年はおれがやらなきゃいけない」という気持ちが影響しているのか、マウンドの表情からも闘争心がみなぎっています。
ボールとしては、ナックルカーブやチェンジアップが目立ちますが、一番の持ち味はストレートにあります。コントロールが安定していて、キレもいい。
勝っているピッチャーには共通していることですが、持ち球の中でもっとも速いストレートが優れているからこそ、それよりも球速差がある変化球がより生きてくる。バッターとしては、速いストレートに差し込まれたくない心理が働くため、変化球だけに狙いを絞るのはなかなか難しいところがあるのです。
特徴的なナックルカーブは、バッターの目線を惑わすことに役立っています。小笠原投手と対した場合、意識としてはストレートとチェンジアップへの比重が高くなるバッターがおそらく多いでしょう。低めに目線が向いていることになります。この目線から、高めから落ちてくるナックルカーブを投げられると、目線が上がることになり、瞬時に反応するのは難しくなるのです。
2ストライクから甘めのナックルカーブを見逃した場合、ファンからすると「何で振らないんだよ」と言いたくなるかもしれませんが、そう簡単に手が出るものではありません。
すべての球に反応して、的確にミートすることはほぼ不可能。狙い球があり、狙うコースがあり、それによって、目付けが変わってくる。アウトコースに目付けをしているときに、インコースにストレートがズバッときたら、飛び跳ねるぐらいびっくりするものです。こうした見逃し方から、「まったく違うコースを待っていたんだな」ということが見えてきます。