野球界を存亡の危機に追い込む「野球賭博」という黒い犯罪
巨人選手の野球賭博事件も、過去に起きた事件とプロセスが似ている。
2016/03/15
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忘れてはならない「黒い霧事件」
1969年、NPBで「黒い霧事件」が起こる。シーズン中、西鉄ライオンズは投手の永易将之が敗退行為をしていたとして解雇。しかし、ライオンズには他にも八百長をしていた選手がいた。これが新聞報道によって明るみに出た。さらに週刊誌も後追い報道を行い、次々と選手の名前が明らかになった。八百長事件とは直接関係のないオートレースの八百長や、野球賭博関係の暴力団との交際なども明るみに出た。
当時のNPBのコミッショナーは3人の合議制だったが、6人の選手を永久追放処分とし、10人を1カ月から1年の謹慎、活動禁止などの処分に処した。またそのほかに3選手が処分はされなかったものの、実質的な永久追放処分となった。
この事件も選手が、外部の野球賭博常習者とかかわったことがきっかけだった。
処分を受けた19人の内、西鉄ライオンズの選手は最多の7人。4人もの選手が永久追放となった。西鉄の稲尾和久監督は辞任。球団を離れて解説者をしていた前監督の中西太も謹慎した。
観客動員はがた落ちとなり、1973年にはライオンズは太平洋クラブ(福岡野球株式会社)に身売りされる。八百長事件による信用失墜が、球界再編まで引き起こしたのだ。
1989年には、当時レッズの監督だったピート・ローズが、野球賭博に関与していることが明らかに。自チームも賭けの対象としていたことから、バート・ジアマッティコミッショナーはローズを永久追放処分とした。
ピート・ローズはタイ・カッブやベーブ・ルースにも比べられる大選手だが、いまだに野球殿堂には選出されていない。
この年、台湾にプロ野球リーグが発足した。アジアでは日本、韓国に次ぐ3番目のプロリーグだった。
観客動員も順調に伸びていたが、1997年に時報イーグルスの台湾人選手全員が野球賭博をしていたことが発覚(黒鷹事件)。人気は急落。以後3年で3球団が解散するなど、大打撃を受けた。
その後2008年には誠泰コブラズを買収した米迪亜ティーレックスが球団ぐるみで野球賭博と八百長の疑いで黒米事件が浮上。米迪亜は除名処分を受け、チームは解散している。
追い討ちをかけるように、2009年オフには複数の球団をまたぐ大規模な野球賭博、八百長事件が発覚した。
台湾ではプロリーグが発足して27年が経過するが、王建民(ヤンキースなど)、ウェイン・チェン(中日、オリオールズ)、陽岱鋼(日本ハム)など、トップクラスの選手の多くは、台湾プロ野球に進まず、NPBやMLBに挑戦する。年俸格差が大きいからだが、度重なる野球賭博事件で、台湾プロ野球のステイタスがいまだに低いままであることも大きい。
こうして見ていくと、数人の選手が軽い気持ちで始めた野球賭博が広がり、チームの存続を脅かし、球界の信頼を失わせる事態へとつながっている。芋づる式に次々と関与する人物が明らかになり、事態が深刻化していくのだ。
昨年9月末に発覚した巨人選手の野球賭博事件も、3月になって新たな展開となった。これまでの事件とよく似たプロセスを歩んでいる。
今こそ、NPBの自浄能力が求められている。