1打席でその後のスイングが狂うことも……落合博満氏が語るプロ野球人生を左右する“一球の重み”【横尾弘一の野球のミカタ】
たった一打席、一球で自分の人生を良くも悪くも変える。それがプロ野球という世界だ。
2016/03/29
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野球人生を変えた一打席
「一球に泣き、一球に笑う」
第88回選抜高校野球大会を見ながら、そんな野球の醍醐味を実感する季節である。もちろん、たった一球によって運命が変わるのは高校野球だけでない。むしろ、人生さえも変わるプロ野球での一球には、計り知れない重みがあると言っていい。
中日の落合博満GMも、そうした一球を体験しているひとりだ。
三冠王・落合誕生のきっかけとなった一球は、1980年7月12日の近鉄戦である。
ロッテへ入団した1979年に一軍出場が僅か36試合だった落合は、強い決意で2年目のシーズンに臨み、イースタンでは5月31日の巨人戦から5試合連続本塁打をマークする。しかし、前半戦は一軍から声がかからない。そんな状況を見た球団代表が「せっかく獲ったのだから落合を使え」と命じ、ようやく7月に一軍へ昇格した。そして、12日の近鉄戦で、大きくリードされた7回表に代打で出番を与えられる。マウンドには、エースの鈴木啓示だ。
「4~5点差で7回、代打は2年目の名前も知らない若手。無警戒にスーッとストレートを投げてくるのは明らかで、それを私がしっかりとらえられるか」
そう考えた通り、初球のストレートを振り抜いた落合の打球は、日生球場の左中間スタンドに消える。しかも、この試合はNHKが生中継しており、実況のアナウンサーが落合の紹介に手間取っている間に打ったことで、なおインパクトを持つ。
「次の南海3連戦にスタメン起用されて2本塁打。オールスターを挟んだ阪急戦でも2打席連続本塁打と、時の勢いみたいなものがあった。それで一軍の戦力になり、翌年の首位打者、その次の年の三冠王につながるんだけど、すべてはあの代打で初球を振ったところから始まっている。そういう意味では、私の人生を変えた一球ということになる」