実力でつかんだ8回の仕事場。配置転換で示した新しい「池田隆英像」【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#207】
ファイターズに移籍して3年目の池田隆英が今季セットアッパーとして存在感を発揮している。決して田中正義との同級生コンビの話題作りではない。首脳陣は根拠をもって配置転換したことで、池田のプロとして生きる道を切り開いた。
2023/08/30
産経新聞社
貫禄あるセットアッパーに
楽天19回戦(8月22日)の試合後、池田隆英のことをしっかり書いとかきゃいけないと反省したのだ。試合のヒーローは打撃陣(マルティネス、郡司裕也、清宮幸太郎)、なかでも2本のホームランを放った郡司がスポットライトを浴びた。そのこと自体に異論はないのだ。大型連敗してた頃はピッチャーが試合をつくっても、点が取れなかった。打撃陣には頑張ってほしいのだ。活躍したら拍手喝采を送って、大いに気をよくしてもらいたい。何といっても野球は点取りゲームだ。打たないことには勝てない。
だけど、楽天19回戦の隠れたヒーローは池田隆英だった。加藤貴之、河野竜生とつないできた8回、スコア6対2と4点リードの場面でファイターズは山本拓実をマウンドに送った。先頭の浅村栄斗はゴロアウトに切って取ったのだ。次の岡島豪郎に10球粘られた挙句、四球に出す。代打で出てきた鈴木大地はストレートの四球。点差があるとき、いちばんやっちゃいけないのが「ランナーをためること」だ。2四球で一死1、2塁。続くフランコはセカンドフライに取ったが、山本はちょっといっぱいいっぱいに見えた。
勝負どころと見て、楽天・石井一久監督は代打島内宏明を出してくる。ファイターズはここで池田隆英に火消しを託した。が、島内ヒットで二死満塁。試合がどっちへ行くかわからなくなる。状況を考えたら心臓が飛び出しそうになっておかしくない。
が、池田の落ち着いた様子を見ていると、何となくこれは大丈夫だなと思えた。彼の内心がどうなのかは知らない。表情を変えずに、満塁のピンチでもかすかに自信を漂わせている。続く小深田大翔をセカンドゴロに取って、三者残塁&無失点。ベンチ前では(ピンチをつくった)山本拓実がペコペコしている。このとき、池ちゃん貫禄あったんだよ。見事、ホールドを稼いだ。
あの日からずっと池田隆英のことを考えている。彼の今シーズンの飛躍をしっかり書いて、残さなくてはならない。創価高→創価大の同級生、田中正義が(FAの人的補償で)移籍してきて、ファイターズで抑えとして新しい自分を見つけたように、池田隆英もセットアッパーとして新境地をひらいた。これはもう、本当に野球ドラマだ。学生時代、エースナンバーを争った2人(池田が「1」のときも、田中が「1」のときもあったと聞く)がエスコンのブルペンでアップし、肩をつくる物語性。今、エスコンのブルペン前「特等席」チケットは値段以上の価値がある。ブルペンの様子をつぶさに見られて、リリーフカーで出ていくところが見られて、8、9回、同級生リレーが見られるのだ。こんなこと誰も想像していなかった。