実力でつかんだ8回の仕事場。配置転換で示した新しい「池田隆英像」【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#207】
ファイターズに移籍して3年目の池田隆英が今季セットアッパーとして存在感を発揮している。決して田中正義との同級生コンビの話題作りではない。首脳陣は根拠をもって配置転換したことで、池田のプロとして生きる道を切り開いた。
2023/08/30
産経新聞社
8回、9回を任される同級生コンビ
僕は池田は先発タイプだと思っていた。2021年春先、横尾俊建との電撃トレードが発表になり、楽天時代は故障がちの印象があった(それが原因で育成落ちを経験している)けれど、獲りに行ったということは復調のメドが立ったんだなと思った。実際、その年は(谷間の起用ではあったけれど)16試合に先発、3勝10敗と大きく負け越しはしたが、投球回82.1、防御率3.94とまずまずの結果を残した。試合がつくれる投手だった。負けが多いのは援護に恵まれなかったせいもある。まっすぐが150km/h台、球速帯の違うスライダー2種、ツーシーム、フォーク、たまにチェンジアップもある。狙いを絞らせない。故障も特になさそうで、これは翌シーズン、飛躍するかもなぁと期待した。
が、翌2022年シーズンは4試合先発、16.1イニングと登板機会が激減する。僕は憮然とした表情で2軍戦の先発に立つ池田の姿を覚えている。球の力はもちろん2軍のそれではない。何かひとつきっかけがあれば化けるのに、と残念に感じた。たぶん僕なんかがイメージしてるより、首脳陣の評価は低かったのだと思う。
で、その「きっかけ」が訪れるのだ。田中正義の加入で同級生コンビは脚光を浴びる。但し、今では必然にすら思える「同級生リレー」の誕生については、それぞれ個別に分けて考える必要があるかと思う。首脳陣が「よーし、ジャスティスは球が速いし、フォークで三振が取れるからクローザー起用が面白いな」と思ったとして、「あ、そんなら同級生の池ちゃんもセットアップに配置転換だ、これは評判になるぞ」と、芸能プロのバーター営業みたいなことを考えるかという話だ。同級生だろうが何だろうが、打たれたらセットアッパーは務まらない。プロは実力の世界だ。当然、首脳陣はそれぞれの力量を見積って、そのシーズンの配置を決める。
田中正義の評価とは別個に、池田セットアップ起用の勝算があったと見なくてはならない。ここが面白いところだ。常に田中とセットで語られる池ちゃんを、池ちゃん単体で見ていく必要があるのだ。
先発投手とリリーフ投手。その適性について考えるとき、池ちゃんの「球種が多い」特徴は先発タイプだと前述した。打順の巡りによって、1打席目はまっすぐ主体、2打席目はスライダー‥、と目先を変えていけるからだ。その点、ショートイニングを任されるリリーフは「配球の組み立て(組み替え)」はいらない。自分の強い球をバンバン投じていけばいい。結論が早い。強い球、強い変化球は打たれない。それだけのこと。
実際、セットアッパーとしての池田隆英はストレートが目立つ。投球が変わった。多彩な投球より、割り切って自信のある球を投じる方に意識が向いている。それが新しい「池田隆英像」を生み出してくれた。
ひとつ興味深いデータとして、先発時代の池田は「ランナーを置いた場面で踏ん張れていた」というのがある。得点圏にランナーを置いた場面での被本塁打が少ない。僕はプロ球団と違って選手データをすべて見られるわけじゃないが、セットアッパー起用の背景にはそういうところが考慮されてると思う。