岸“開幕外し”からみえる西武の戦略――捕手・炭谷の配球に隠されたソフトバンク対策
パリーグを制する上で、何よりも圧倒的な戦力のソフトバンクとどう戦えるかだ。西武は今季、その対策を綿密に練っている。
2016/04/11
中田へ2球連続カーブを要求した理由
開幕から4週目に突入する2016年ペナントレースで、パ・リーグの見どころとなっているのが「ソフトバンク包囲網」だ。昨季2位に12ゲーム差をつけた王者は今年も圧倒的な戦力を有し、対抗する5球団が激しいマークを見せている。
対策は、先発ローテーションをずらしてエース級をぶつけるだけではない。戦いの裏では、実にレベルの高い駆け引きが繰り広げられているのだ。
4月12日、本拠地でソフトバンクを迎え撃つ西武の正捕手・炭谷銀仁朗は、1週間前から強力打線に対して“エサ”をまいていた。
4月5日に西武プリンスドームで行われた日本ハム戦では打線が中盤に爆発し、5回終了時点で9対0と試合の趨勢が決まる展開だった。先発の岸孝之は「調子が良くなかった」と言いながら、スコアボードにゼロを並べていく。
炭谷が仕掛けたのは7回一死、打席に中田翔を迎えた場面だ。打席で侍ジャパンの4番打者と対峙しながら、同時にソフトバンクの柳田悠岐、内川聖一、松田宣浩らの姿を思い浮かべていた。
中田に1ボール、2ストライクからファウルで1球粘られ、バッテリーが5球目に選択したのは真ん中低めのカーブだった。その軌道は内角のやや高めに描かれ、ヒヤリとするボールだったが、中田は打ち損じてファウルにする。
続く6球目、炭谷はまったく同じコースに同じボールを要求した。中田はタイミングを完全に狂わされ、泳いでサードゴロに倒れた。
最初のカーブは思惑通りの球にならなかったが、岸クラスなら2球続けての投げミスはないと考えたのだろうか。炭谷にそう聞くと、「それもあるし、あまり言いたくないんですけど」と前置きして数秒置いたうえで、配球の意図を語り始めた。
「(3月29日の)ソフトバンク戦であまりカーブを投げていないという情報は、日本ハムにもあったと思います。あそこで(中田)翔に行くまでにはカーブの続け球は要求していなかったので、逆に使おう、と。もちろん点差もあったし、データを残すためにもと思いました。(岸が)次に対戦するのはソフトバンク戦で、『カーブが2球も続いているよ』というデータも行くだろうし、『前回よりはカーブが多いよ』というデータも入るだろうと思います」
中田を前回登板、そしてこの日の7回無死までと違うパターンで打ち取りながら、1週間後に対峙するソフトバンクのスコアラーにはカーブを2球続ける配球を見せていたのだ。実に味のある頭脳戦だった。