スプリットではなくチェンジアップに活路を見出した金子千尋 日米野球という豪華な実験室で得られた発見
国内FAを行使し、来季の去就に注目が集まる金子千尋投手が日米野球第2戦に登板した。WBCを見据えた球場仕様、使用球も大リーグ仕様。金子にとってはまさに仮想メジャーでの登板となった。
2014/11/17
WBCを見据え、メジャー環境に近づけた日米野球での登板結果に意味がある
金子の登板がこれだけ注目を集めたのは、大リーグ選抜という対戦相手だけではなく、周囲の環境にもある。
8年前までの日米野球では、大リーグの投手が投げるイニングは大リーグ球が、日本選手の登板時はNPB公認球が使用されてきた。
それが今回、17年WBCを見据えた強化策として、日本選手の登板時にも大リーグ球を使用。加えて各球場のマウンドは突貫工事が施され、多くの米球場で使われる土に入れ替えられた。粘土質で固いため滑りにくく、掘れやすい。
可能な限り、メジャーに近づけた環境が用意されていたわけだ。
日米野球出場予定の選手には、NPBからシーズン終了後に大リーグ球が配布されていた。
金子もクライマックス・シリーズ敗退後の秋季練習では、その大リーグ球で投げ込み、感触を手に馴染ませてきた。
送り出す侍ジャパンの小久保監督をして登板前日に、「本人の野球人生で一番注目される登板になると思う。いろんなプレッシャーがあると思うけど、雑音を気にせず、キャッチャーミット目がけて投げてほしい」と話したほど。
金子自身、登板の3日前からは固く口を閉ざし、この舞台に集中してきた。
ボールの違いが投球に及ぼす影響は、投げた者でないとわからない。
日米野球で凱旋登板を果たしたカブスの和田毅は会見で「一番難しかったのは、ボールにアジャストすることだった」と明かした。
環境によって滑ったり、滑らなかったり……飛びやすい地域もある――湿度や気圧の違いが影響するため、同じ大リーグ球でも、日本で握って投げるのと、米本土では全く別物と口にする選手も多い。
固いマウンドも同様だろう。
土台である下半身に影響を及ぼすため、レンジャーズのダルビッシュは渡米後に投球時の歩幅を半足分狭くした。
金子も登板後に「慣れるのに時間がかかった」という。
足元を支えるスパイクも、固いマウンドに合わせソールの厚さを変えたものを複数試していたようだ。
今回の内容が直接通信簿になることはないが、一定の指標にはできる。
そういった意味で、試合中にスプリットにある程度見切りを付け、チェンジアップで勝負した金子の判断力、適応力は光る。
捕手を務めた愛妻の伊藤も「試合直前のブルペンでは特にスライダーなど変化球が抜けていて、どうかなと思った」と会見で振り返った。それでも「そこからきっちり修正するのが金子さんの凄さ。そのレベルの高さを、日米野球という舞台で実感させられました」と1試合の過程での変化に、舌を巻いた。
ネット裏にはレッドソックス、レンジャーズ、ジャイアンツ、パイレーツなどメジャー10球団以上のスカウトがズラリ並んだ。共通して口にしたのは「メジャーで十分通用する可能性を持つ優れた投手」ということ。国内FA宣言した金子だが、その上でオリックスがポスティング・システムを申請し、大リーグへ挑戦することも可能だ。
去就に関して多くを語らなかった金子。
沢村賞右腕は、果たしてこのオフに太平洋を渡るのか。
ただ、海の向こうも見据えて、豪華な実験室で得られた発見は、決して小さくはなさそうだ。